ぼくが謝罪する様子がメディアで報じられ、SNSでも〈無能〉〈一発屋〉〈宝くじに当たっただけ〉と叩かれました。叩かれたのは、株主やメディアからだけではありません。社内での求心力も落ちて組織がバラバラになりかけました。
実際、赤字に転落したときに新卒社員たちと飲みに行ったとき、記者のように厳しい質問を浴びせられました。
「なんで赤字の会社を整理しないのですか?」
「責任をどうとるつもりなんですか?」
質問に対して、どんなに言葉を尽くしても、社員たちに言葉が届かなかった。社内なのに、アウェーの雰囲気がひしひしと伝わりました。
だからといって孤独に打ちひしがれていたわけではないんです。ぼくは、孤立無援の状況を当然の現象として受け止めていました。好調時は、トップは何をやっても称賛される。組織も明るく活気がある。しかしいったん失敗すると、トップの求心力が失われ、組織の歯車が逆回転する。それは仕方がないことなんです。
息子に誓ったひと言
193億円の大赤字の渦中で忘れられないことがあります。
赤字を発表した翌日、朝起きたら当時12歳だった子どもが、ワイドショーを見ていました。そこではぼくが謝罪する様子が流れていました。
普通ならチャンネルを変えるでしょうが、そうはしなかった。
子どもが学ぶべきは、厳しい状況に陥ったときにどうするかなのではないか。そう思って子どもにはぼくを批判する新聞を読ませました。そしてこう伝えたんです。
「お父さんは逃げないし、このあと必ず復活するから」
その一言で、ぼく自身も改めて覚悟が決まった気がします。
チャレンジが成功するとは限らない。いや、うまくいくほうが珍しい。昔からそんなふうに考えるクセがついていたせいか、失敗を何度経験しても、諦めるという選択はなかった。それは、うまくいかないことに慣れていたからです。
ぼくは子どもの頃から何をやっても怒られてばかり。褒められた経験がほとんどなかった。そのせいか、常に最悪を想定してしまうんです。