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考えたこともなかったシニア向けのキックボクシング

「当時このオプションを選ぶ人は若い人が多かったのですが、あるとき70代のお客さんから『私にもできるでしょうか?』と尋ねられて。それまで考えたこともなかったのですが、『たしかに高齢者でも関係なく楽しむことは可能だな』と思ったんです。実際、その患者さんも問題なくトレーニングを行えましたし、楽しんでやってくれました」

ディフェンスのトレーニングも

 前述の通り、現在は70歳以上を対照したシニア向けコースを開講し、6~7名の受講生がいる。このほか、前編で紹介した川崎さんのようにパーソナル指導を受講する高齢者もおり、意外な需要の大きさを生井氏も実感したという。

「患者さんが整骨院に来るときは、身体の状態が悪いときです。もちろんそこをピンポイントで治すことは必要ですが、同時に、運動によって少しでも健康を維持することも大切なことなんですよね。特に高齢者になると、運動するきっかけが減ってしまいがちなので、そのきっかけ作りをお手伝いしたいと思っています。

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 とはいえ、私自身、はじめからそういう構想があったわけではないんです。高齢者のホスピタリティ向上といった高い志を持って開業したわけでもありません。しかし現在では、そのニーズを強く感じています。ミットを合わせて会話を楽しむことで、会員さん同士がイキイキして、毎日の活力になってくれているのがわかるんです」

練習後のお二人

 運動を、楽しく。掲げられた目標はこれ以上ないほど理想的だ。だが生井氏自身はJ-NETWORKという団体でライト級1位にまで上り詰めた元プロキックボクサーという経験も持つ。指導の際に、つい厳しさが顔を覗かせてしまうことはないのだろうか。

「スポーツは、どんなライフステージの人であっても楽しむことのできる側面を必ず持っています。私はプロになろうと邁進する一部のアスリートも応援しますが、それ以上に、多くの人が毎日を健康に生きるためのサポートをしたいと思っています。スポーツの持つ過酷な面を知っているからこそ、それは引き出しにしまって、楽しい面を前面に出して指導したいんです。また、キックボクシングの両面を知っている私だからこそ、いまだに過酷なイメージの強いキックボクシング界の裾野を広げることもできるのではないかと思うんです」

 超高齢社会といわれる日本において、生井氏はキックボクシングの指導者としてこんな感想を持つ。