財務省事務次官のセクハラ発言が炎上中だ。日本では昨年5月にフリージャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者から受けたとされるレイプ被害を実名で告発して以来、性的な暴行やハラスメントへの社会的関心が高まっている。今年4月にはアメリカ国務省の人権白書にも、日本の職場におけるセクハラの横行や、女性が業務上で不平等な扱いを受けていることが明記されてしまった。

女性役員の登用率は日本6%、中国51%

 では、一方で中国の事情はどうなのか。まず都市部のホワイトカラーの世界における日常的なセクハラについては、おそらく日本よりも発生率が低い。中国は社会主義体制の影響もあって女性の社会進出が日本よりも進んでおり(例えば企業における女性役員の登用率は日本の6%に対して中国は51%だ)、職場における女性の地位はそれほど低くないし、妊娠・出産も日本の同様の職場ほどにはキャリアの妨げにならない。

 中国ではスキンシップに対する文化的な抵抗感が日本よりも強く存在するうえ、女性が自分の意見をストレートに表明する傾向が強いため、「何か」が起きかけた場合はガンガン言い返す。人材の流動性が高い職場が多く、女性側は自分が極端に不快を覚える環境であればさっさと辞めてしまうという選択肢も残されている。

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 そもそも、中国人には個人主義者が多いためプライベートの領域に職場の人間関係が持ち込まれにくい(親睦を名目にした飲み会文化も日本ほど盛んではなく、泥酔も嫌がられる)。総じて、日本と比べて「事故」が発生しにくい環境だと言えるだろう。近年の中国の若者は急速に「草食化」が進んでおり、若い世代になるほどいっそう加害者にはなりにくい。

「性賄賂」というセクハラどころではない話

 ただし、中国の社会は本質的な面では人権意識がちっとも根付いていないため、ひとたび性的な問題が起きた場合には日本よりもはるかに極端でえげつないことになるのが常でもある。

 中国でも、「都市部のホワイトカラー」とはカルチャーが異なる環境ではセクハラが頻発する。すなわち、(1)大都市部ではなく地方都市や農村地帯、(2)外部から内情が見えづらい、(3)人の流動性が低い(=被害者側が逃げられない)、(4)男性側とセクハラ対象に地位や身分の格差がある、(5)男性側が比較的年配層……といった条件に当てはまるほど、性的な問題は起きがちになるわけだ。

4月16日、東平壌大劇場で中国芸術団がバレエを披露。鑑賞した金正恩氏と記念撮影する中国芸術団メンバーたち ©時事通信社

 そして、この(1)〜(5)の条件にすべて合致する最たるものが、中国共産党の末端党組織や地方官僚たちの世界である。彼らはボスに認められて上に引き上げてもらってナンボの世界だけに、「上」の言うことには逆らえない。しかも、当然ながら職場は閉鎖的であり、外部からの可視性は非常に低い。誘いを断った場合に、自分が損をせずに逃げる方法もほぼ皆無である。特に官僚の風紀がゆるんでいた胡錦濤政権時代までは、相当いろいろな事件があった。

 なかでも有名なのは2011年6月に失脚し、2013年8月に無期懲役と終身の政治権利剥奪と全財産の没収の判決が出た李森林の事件だろう。河南省開封市の党常務委員だった彼は1500万元(約2億6000万円)を収賄したのみならず、捜査を通じて自宅から300人分もの女性の陰毛コレクションが発見され、太さや色によって分類の上で女性の氏名が記されていたことが明らかになった(後にこの陰毛で毛筆を作る予定だったという話もある)。