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大学内のセクハラと#MeTooの封殺

 他にセクハラや性暴力が多いとみられるのは大学だ。今年に入ってから中国を騒がせているのは、軍事技術開発とも関係が深い名門校・北京航空航天大学の大学院における教授のセクハラが元学生によって実名告発された事件と、20年前に北京大学で教授の性的暴行を受けて自殺した女子学生の名誉回復運動である。こちらはすでにあちこちで報じられているので、以下にリンクを紹介するのにとどめておこう。

中国の名門大学を騒がせたセクハラ告発運動 「加害者」は国家が認定したトップレベルの学者2人(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/101059/041800148/

女子学生が自殺、北京大が20年前のセクハラ調査報告書公開(AFP)
http://www.afpbb.com/articles/-/3171004

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中国にも「#MeToo」の波、大学で相次ぐセクハラ告発(WSJ)
http://jp.wsj.com/articles/SB10920515820464333357004584180771142673980

 ゆえに、中国でも航天大学の件が明るみに出た今年の2月頃から、ネット上で「#MeToo」ハッシュタグを使ったセクハラ告発運動が起きはじめた(また上記事件のセクハラ教授2人はいずれも処分を受けた)のだが、他の諸国と異なって#MeToo運動それ自体は当局から抑圧される傾向にある。

北京大学 ©時事通信社

民間主導で署名やデモが広がるのはタブー

 たとえセクハラ告発が目的とはいえ、現在の中国において民間主導で署名運動や学生デモの動きが広がる現象はタブーだ。特に4月の清明節(祖先祭祀の祭日)から6月にかけての市民運動や学生運動は、29年前の六四天安門事件を連想させるため、当局としては理由のいかんを問わず押さえ込まなくてはならない。

 また、民間主導で統制が効かない状態でセクハラ告発の動きが広がれば、当局から見て失脚しては不都合な人間(現政権の関係者など)が思わぬスキャンダルに見舞われるおそれも出る。中国の社会とネット主導の#MeToo運動は、基本的に相性が悪いと言っていい。

 日本ではセクハラの告発がおこなわれた後に、仮に加害者が与党系のジャーナリストや省庁の高官だった場合には、ネット上において政治的意図にもとづく被害者叩きやセカンドレイプが横行しがちだ。いっぽうで中国の場合、そもそも事態が政治問題に拡大化することを押さえる目的から、告発の芽はスタート後のかなり早期の段階で摘み取られることになる。

 トータルで見ればいずれの社会が「まだマシ」かは言をまたないとはいえ、被害者にとって声を上げづらい環境である点は変わらない。なんとも、モヤモヤさせられる話だ。