――自然と選択肢が狭まっていった。
濱井 当時はわかりませんでしたが、今なら周囲の環境によって夢への道を絶たれていたとわかります。
地元は保守的な地域で横並び意識が強く、外に出る人も少ない。それに親族は誰ひとり教育に関心がないので「成績が悪くても高校を卒業できればいい」「大学は金がかかるし行く必要はない」という考えでしたし。
――濱井さんが長男であることも足かせに?
濱井 間違いなく大きな足かせでした。「長男は家を守って親孝行すべし」という価値観が根強い地域なんですよ。しかも、うちは父が倒れてますから「家族を支えるべき立場であるおまえは、外に出てはいけない」という空気もありました。
高校生活は「人生最悪の時期でした」
――S高校に進学後、状況は変わりましたか?
濱井 人生最悪の時期でした。私は今でも高校選びは失敗だったと思っています。当時のS高は偏差値40で大学進学率が1割未満、しかも勉強する人をバカにする雰囲気が強くありました。「勉強するのはカッコ悪い」と思っている人間ばかりで、話題といえば酒・タバコ・女ばかりでした。
――未成年ですよね……?
濱井 未成年ですが、そういう生徒は多かったです。
特に私が入った野球部は酷くて、本当に下劣な人間の集まりでした。万引きする生徒も多くて、一緒に万引きしようと誘われたのを断ったら、イジメのターゲットにされました。一番酷かったのが「失神ゲーム」。息を10秒止めて10秒吐いたあと、壁にガッと押し付けられると、本当に失神するんですよ。意識が戻ると、みんなが自分を見下ろして笑っていて。
――完全に暴力ですね。
濱井 あとは、遠征試合で打てないとホテルのロビーを裸で歩かされたり、駅のホームで上半身裸のまま空気椅子をさせられたり。ケータイを奪われて服を脱がされ、局部画像を撮られて女子生徒にメールで送られたこともありました。
――酷いですね。
濱井 そういう高校だったので、普通に授業を受けて課題を出すだけでも「なに勉強してんねん、おまえアホちゃう」とバカにされました。成績トップの生徒も「あいつ、勉強しかできひん」と言われてましたし。
――勉強をするとバカにされる。
濱井 10代の私は今よりも空気を読むのが苦手で、行動がワンテンポ遅れたり、会話のキャッチボールがうまくできなかったんです。そのせいか「おまえ、ガイジやろ」などの差別発言もよく浴びました。テストでわざと悪い点数を取ってイジメの標的にならないようにしたこともありましたが、一度狙われたら終わりでした。