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自分のなかにあるものだから、向き合わざるをえなかった

――『夕辺の秘密』は1989年のぴあフィルムフェスティバルでPFFアワード・グランプリを受賞します。同性愛の葛藤を描いた映画は、当時としては画期的だったはずです。

橋口 商業映画はもちろん、自主映画でもそういった題材の作品はありませんでした。同性愛に対する呼び名がホモ、レズ、オカマ……変態とか退廃的とか言われていた時代です。でも自分のなかにあるものだから、それと向き合わざるをえなかったんですよね。

――ゲイだと気づいたあとは、すぐにそれを作品の題材にしていこうと決めたんですか?

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橋口 いや、すぐにはそう思いませんでした。怖かったですから。「僕は男の子が好きなんだ」と言ったとたん、石が飛んでくるかもしれない。当時はそんな空気です。

 

 実は『夕辺の秘密』の前に、ドラマとドキュメンタリーが一緒になった『ミラーマン白書』という自主映画を撮っています。まず同じ大学の好きだった人のところへ行って、「あなたのことが好きです。僕の映画に出てください」って、生まれて初めて告白をするんです。すると、相手が「別にいいよ」って、拍子抜けするくらいあっさり受け入れてくれて……そういった過程をすべてカメラに収めていきました。

 でもそれは本心なのかなって、相手を追い詰めてしまった結果、最後は「気持ち悪い」と言われて終わりです。本当に好きだったにもかかわらず、作品を撮ることのほうが好きという感情より上位に来てしまった。『ミラーマン白書』はあまりにも生な部分が出ているので未完のままですが、そのときに自分は因果なものを抱えてしまったなと思いました。

「え、男が男とセックスするの?」

――その後、橋口さんは初の劇場長編作『二十才の微熱』を監督します。ゲイバーで体を売る男子大学生を主人公にした作品ですが、企画を進めるなかで周囲の反応はどんなものでしたか?

橋口 理解はまったくありませんでした。「え、男が男とセックスするの?」って。酷い人は「黒人に子どものころレイプされたせい?」って、そんなことを真顔で言うんです。そんな人たちばかりだから、議論のしようがないですよね。