2006年4月10日、都内の閑静な住宅街でひとつの「事件」が起こった。その日、不審死を遂げた安田種雄さん(享年28)は、木原誠二前官房副長官の妻X子さんの元夫である。事件当時、X子さんは「私が寝ている間に、隣の部屋で夫が死んでいました」と供述したという。通称「木原事件」と呼ばれるこの“怪死事件”を巡り、1人の元刑事が週刊文春に実名告発をした。
「はっきり言うが、これは殺人事件だよ」
木原事件の再捜査でX子さんの取調べを担当した佐藤氏は、なぜそう断言するのか。警察の捜査に、どのような問題や憤りを感じているのか──。ここでは、佐藤氏が「捜査秘録」を綴った『ホンボシ 木原事件と俺の捜査秘録』(文藝春秋)より一部を抜粋して紹介する。(全6回の6回目/5回目から続く)
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種雄さんの父親からの110番通報の伝達
事件の伝達状況は次のようなものだった。
2006年4月9日、22時00分頃に種雄さんが死亡する事件が発生した。
翌日の午前4時00分頃、種雄さんの父親が110番通報を行う。110番通報は必ず警視庁の通信指令本部に送られる。この場合は重要事案である「変死事案」として入電した。その後、通信指令本部が行うのは、大塚署の宿直に指令を出し、捜査一課の宿直にも同報を入れることだ。
——ここまでは「変死事案」の対処ルールに則った流れだ。都内で発生した「変死事案」については、それが病死であっても自殺であっても、通信指令本部から同報として必ず捜査一課の宿直に報告されるのである。
変死事案の指令を受けた大塚署の刑事課の宿直員は、その後、事件発生現場に臨場する。大塚署の署員によって「事件性の有無」「状況」「捜査一課への臨場要請」などを捜査一課に対し、連絡しなければならないことになっているからだ。
つまり、種雄さんの父親からの110番通報の内容は、4月10日時点で大塚署だけではなく捜査一課も認知していた、ということになる。
それからの流れは次の通りだ。
大塚署の宿直員は臨場を終えた後、事案の詳細を書類にまとめ、「死体観察」の詳細を捜査一課に宛ててファックスで送る。さらに、事案について「事件性あり・なし」といった判断を行い、捜査一課と鑑識課(検視官含む)による臨場の必要性の有無を判断して報告しなければならない。
だが、ここで疑問が生じる。