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「あの子は自殺するような子じゃない」木原誠二氏妻の元夫“怪死事件”遺族が悲痛告白…“伝説の取調官”が感じた被害者家族の無念

『ホンボシ 木原事件と俺の捜査秘録』より #5

2024/07/10

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 読書

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 2006年4月10日、都内の閑静な住宅街でひとつの「事件」が起こった。その日、不審死を遂げた安田種雄さん(享年28)は、木原誠二前官房副長官の妻X子さんの元夫である。事件当時、X子さんは「私が寝ている間に、隣の部屋で夫が死んでいました」と供述したという。通称「木原事件」と呼ばれるこの“怪死事件”を巡り、1人の元刑事が週刊文春に実名告発をした。

「はっきり言うが、これは殺人事件だよ」

 木原事件の再捜査でX子さんの取調べを担当した佐藤氏は、なぜそう断言するのか。警察の捜査に、どのような問題や憤りを感じているのか──。ここでは、佐藤氏が「捜査秘録」を綴った『ホンボシ 木原事件と俺の捜査秘録』(文藝春秋)より一部を抜粋して紹介する。(全6回の5回目/6回目に続く

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木原誠二前官房副長官 ©時事通信社

◆◆◆

再捜査の様子が記録された約160分の録音データ

 安田種雄さんが亡くなったのは2006年。遺族の17年間は、どれほどつらいものだっただろうか。

 種雄さんの遺族は警察から、2006年時点で種雄さんは「自殺」だったと告げられた。だが、2018年に大塚署の女性刑事が事件を掘り起こし——俺はその捜査班にいたわけだが——再捜査が行われることになった。遺族はこのとき、大きな希望を抱いたことだろう。「週刊文春」7月20日号では、2018年に大塚署から再捜査が告げられた時の遺族の様子が次のように書かれている。

〈空調設備が放つ無機質な音だけが流れる室内に、堰を切ったように慟哭が響き渡る。5分以上続いた後、長く重い沈黙が時を刻む。警視庁大塚署の殺風景な部屋で遺族と向き合った女性刑事が差し出した名刺には「刑事組織犯罪対策課強行犯捜査係長」と記されていた。以前の部署は警視庁管内に100件以上存在するコールドケース(未解決事件)を担当する捜査一課特命捜査係だ。彼らが初めて顔を合わせたのは2018年4月8日のことだった。

「お母さんにとっては衝撃的な写真だと思うので。お父さん、ちょっとこっち来てもらっていいですか」

 そう言って女性刑事が提示した複数枚の写真。父が亡き息子の最期の姿を見るのは、約12年ぶりだ。父は嗚咽し、時に呼吸を荒らげ、絶望を前に足搔き苦しむ。小誌が入手した約160分の録音データには、こうして始まった再捜査の様子が記録されていた。

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