すでに述べた通り、「立件票」が交付された「事件」では、他殺であっても自殺であってもこの立件票と捜査結果を検察官に送致しなければ「事件」は終わらない。それがルールだ。
犯人が分からない場合であっても、捜査が終了する際は家族班が遺族に対して、「捜査の結果、起訴されました」「調べた結果、事件性はありませんでした」と説明する必要がある。捜査を尽くしても犯人が分からず、捜査が縮小される場合でも、その理由や経緯は遺族に説明される。「コールドケースとして今後は扱われることになる」と伝える。それが従来のやり方だ。
「事件」というものは、どのような形であっても、そのように「締め」があって初めて終わるものなのだ。だが、種雄さんのケースでは唐突に捜査の終了が現場に告げられ、遺族に対しては何の説明もなされてこなかった。捜査のルールが完全に無視されているわけだ。
遺族の権利までないがしろにされた
当然、遺族は納得するはずがない。それだけではなく、遺族の権利がないがしろにされてしまったことも問題である。
殺人事件で家族が命を落とした場合、遺族は「犯罪被害者等給付金制度」の対象となる。申請できる期間は7年間であり、遺族給付金では最大で数千万円の給付金が出る可能性がある。もちろん自殺の場合は出ない。種雄さんの遺族の場合、2018年の再捜査の時点ではすでに権利を失っているが、そもそも大塚署がちゃんと当初の捜査をしていれば、この権利を失うことはなかったのだ。
事件を放り出した上で遺族の気持ちを踏みにじり、権利を奪い取り、挙げ句の果てには事情を知りもしない警察庁長官が「自殺」と公の場で言い切ったことで、安田さん家族はどれほど苦しんだのか。
会見の日、種雄さんの母親は泣きながら俺にこう言っていた。
「あの子は自殺するような子じゃないんです」
泣き崩れる母親の姿を見て、俺は露木長官への怒りがさらに自分の中で湧き上がってくるのを感じた。
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