大塚署はなぜ――浮かんでくる複数の疑問
種雄さんの「変死事案」はすでに繰り返し指摘してきた通り、どう考えても「自殺」と断定できるようなものではなかった。
種雄さんの遺体にはナイフで頭上から胸元に向かって刺されたと思われる傷があり、死因は失血死だ。しかも、ナイフは仰向けに倒れていた種雄さんの右膝のあたりに置かれていたのである。
なぜ、大塚署の宿直員はそのような「現場」を見たにもかかわらず、捜査一課に対して臨場要請を行わなかったのだろうか。
なぜ、大塚署の宿直員はこの事案を「事件性はなく、自殺である」などと、虚偽ともいえるような報告をしたのか。
なぜ、当時の捜査員や宿直責任者は正確な状況を捜査一課に報告せず、臨場要請をしなかったのか。
なぜ、捜査一課の宿直員は大塚署から送られてきた「死体観察メモ」を見て疑問を感じなかったのか。
複数の疑問が浮かんでくる。
大塚署の宿直員は「現場」を見て事件性があると考えたにもかかわらず、種雄さんの父親や捜査一課に対しては、「事件性はない」と虚偽の事実を報告していたのではないか——こうしたことが、そこからは窺える。
「事件」にすることを面倒だと考えたのではないか
大塚署の初動捜査が抱えている大きな問題は、2006年から2023年まで、事件が紆余曲折するに至った理由に直結している。
その後、4月11日に検察庁から「立件票」と「鑑定処分許可状」が交付され、種雄さんの「司法解剖」が行われている。結果は極めて他殺の可能性が疑われる「不詳の死」であり、これは「事件性がある」ということを意味する。
通常、司法解剖前に署の捜査員が事件性の有無、他殺・自殺の判断をすることはあり得ない。それでも大塚署の捜査員が「事件性なし」との報告を行ったのは、覚醒剤を使用していた種雄さんやその家族の社会的地位を低いものと捉え、これを「事件」にすることを面倒だと考えたからなのではないか、と俺は推察している。
実際、後にこの事件を掘り起こした女性刑事も、
「これは本当に、よく自殺で処理しましたよね」
と、言っていた。
「これは面倒くさかったんだよ、当時の奴らは」
「ああ、そうですねえ。私もそう思います」
「普通、一課に連絡するだろ?」
「私もそう思います」
彼女と俺はこういうやり取りを交わしていた。
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