党幹部による「忠誠競争」の中身とは
一方、金正恩氏の周囲には「忠誠競争」という名の、おべっか競争を繰り広げる側近たちがいる。ある意味、北朝鮮も普通の会社組織のようなものだ。金正恩氏の周りには、自分が出世するため、最高指導者にこびへつらおうとする幹部であふれている。金正恩氏は1月8日で満40歳になった。側近たちは金正恩氏に「40歳になったことだし、もう独り立ちしてもよろしいのでは」とささやいたことだろう。
北朝鮮メディアは今年5月、党中央幹部学校で、初めて金正恩氏の肖像画が金日成、金正日両氏に並んで飾られている様子の写真を伝えた。今年4月に訪朝した日本の主体思想国際研究所関係者に対し、李日煥党書記が「金正恩革命思想を新たに整理している」と語っている。ロシアのプーチン大統領が6月に訪朝した際は、妻の李雪主氏や「キム・ジュエ」とされる娘を一切登場させず、佐良直美の「世界は二人のために」さながらの、ツーショットを繰り返し、男同士の熱いブロマンスを演出した。
元党幹部は「北朝鮮の幹部たちは、誰が一番早く、最高指導者の神格化作業を提案するのかという点で競い合っている。神格化をする場合、それなりの論理と裏付けが必要だし、最高指導者自身が必要ないと拒めば、逆に政治的に窮地に立たされる。でも、その提案が最高指導者に受け入れられれば、政治的に大きな得点になる」と語る。バッジひとつとっても、側近たちの阿諛追従(あゆついしょう)に簡単に応じなかった金正日氏と異なり、不安でいっぱいの金正恩氏は「おだて甲斐」のある「軽い神輿」ということなのだろう。
北朝鮮は最近、4月15日の金日成生誕記念日を「太陽節」と呼ばなくなった。金日成氏は長く、「民族の太陽」と呼ばれてきたが、祖父の存在自体が、金正恩氏の神格化にとって邪魔になってきたのだろう。