金日成がたしなめた服装を、金正恩の夫人と愛娘が...
ジジ離れはほかにもある。金正恩氏は5月14日、平壌・前衛通りの竣工式に出席した。同席したジュエ氏は、両腕の部分が透けて見えるシースルーの服を着ていた。シースルーは昨年くらいから、欧米を中心に流行が始まっていた。
また、ジュエ氏の母、李雪主氏は一昨年7月27日に平壌で開かれた朝鮮戦争の「勝利(停戦)」69周年行事で、白いノースリーブ姿で登場していた。西側の流行も追いかけたいし、母親がノースリーブを着たんだから、娘も腕の部分が見えるシースルーくらいなら大丈夫だろうという判断なのかもしれない。朝鮮中央通信は5月30日、早速、腕の部分がシースルーになっている女子児童の写真も公開した。ジュエ氏を「ファッション・リーダー」のように、人々の注目を集める人物として売り込みたい思惑も透けて見える。
ただ、金日成総合大学に留学経験があるアンドレイ・ランコフ韓国国民大学教授は著書「民衆の北朝鮮」(花伝社)で、金日成氏が1982年の最高人民会議(国会)での演説で明らかにした、ファッションに対する考え方を紹介している。金日成氏はこう言った。「女性が袖のないものを着たり、乳房を見せる服装をしたりするのは、社会主義の生活様式と合致しません」
金正恩が打ち出した「ジジ離れ」が抱える“矛盾”
何も40年以上も前の基準に合わせなくてもいいだろう、という意見も出そうだが、北朝鮮の場合は事情が違う。金日成氏は、北朝鮮の人々にとって文字通り、神のような存在だ。労働新聞は今月7日付の記事で、「朝鮮の強さ、全ての勝利と栄光の根は、領袖(金日成氏)の歴史を絶え間なく継いでいく偉大な継承にある」と訴えている。もっとも、同じ記事では「金正恩朝鮮労働党総書記の意志に従う道に金日成主席の永生がある」とも主張している。要するに「金日成氏は絶対的な存在だが、ジジ離れしても問題ない」と取り繕っているわけだ。
問題は、ジジ離れすればするほど、「金日成氏の孫」という、これまで自分の権力の正統性を支えていた唯一の根拠をぶち壊すことにならないのかという点だ。金正恩氏もその点は大いに不安なのだろう。6月末から開かれた党中央委員会拡大総会では「司法制度の強化」「幹部の活動方法の改善」などを決めた。みんなが勝手な動きをしないよう、どんどん締め付けるという意味だ。
普通、どこの国でも独り立ちしたら、自分で自分の面倒を見るのが当たり前だが、北朝鮮だけはそういうわけにはいかないらしい。