もちろん、すぐには変われない。加害的な言動をしてしまった時には反省し、「どうしてこういう言い方になってしまったのか」「次からどのようにしたら2人が幸せにやっていけるか」を繰り返し考えた。
改善、妻は辛抱強く関わりを持ってくれた
「徹底して『自分の言動の反省』のみを行いました。なぜなら、被害者には『加害されるに足る理由』などなく、改善の必要性はないからです。加害者は、自分の加害の責任を取らなければなりません。この間、辛抱強く関わりを持ってくれた妻には、本当に感謝しています。彼女なしでは、自分はコミュニケーションを省みることができず、過去の自分と同様、これからも関わる家族、友人、職場の人たちを悪意なく傷つけ、深く安心できる関係を持てなかったと思います」
「連鎖するトラウマ」の正体
中川さんは、妻の才能を開花させようと懸命になっていたのは、「子どもの頃の自分が求めていたことだった」と理解した。同時に“自分が本当は母親から愛されていなかった”と感じていたことにも気付く。
「“サポートが不十分なのに期待だけが高い状態”ではなく、“期待とともに十分なサポートをしてもらえる状態”になりたかったし、そうしてほしかった。それが得られなかったからこそ、得られることが“正しい”期待の仕方であり、サポート・応援の仕方だという考え方が僕の中にあったのです。
しかし、期待すること自体が相手をコントロールすることであり、期待から外れたら失望すること自体が支配であり暴力であることに気づいていませんでした。そもそも、サポートが十分であることと愛することとは無関係だということがわかっていなかったのです。仮に親のサポートが十分であったとしても、期待から外れたら、本人よりも失望したり落ち込んだりすることは、子どもにとって暴力以外の何物でもありません」
中川さんは母親を愛していたから、母親からの愛を求め、期待に応え続けた。しかし母親は、自分が望む「理想の息子像」を押し付け、その型に中川さんがはまらないと責めてきた。
「母親から受けてきた態度が『支配』だったことに気付くと、自分が妻にしてきたことが分かりました。自分が作った『理想の妻像』を当てはめ、足りない部分を足し、余計な部分を削ぎ落として、その人らしくあることを否定していたのです」
SNSを見ていた妻が、あるタレントを「カッコいい」と言ったとき、中川さんが怒り狂ったのはなぜだったのか。
「僕と結婚してるのに、『他の人をカッコいいって言うのは僕に失礼だろう』『結婚相手を不安にさせる行為をするな』という理由です。要するに、自分の自信のなさの裏返し。人を評価する物差しって、カッコいいだけじゃなくてもっと総合的なのに、何か一つでも自分が劣位に置かれるような尺度を当てられることに対して、非常に強い恐怖があったんだと思います」
妻が勤め先での激務に苦しんでいたときも、中川さんは妻の気持ちに寄り添えず、妻を責めた。
「人が困っている時に、困っている相手を助けられない自分やその無力感に耐えられないので、問題解決できたことにしちゃいたかったんです。なぜなら、母のしんどさみたいなものを自分のせいのように受け止めてきたところがあるから……。自他の境界が緩んでいて、相手の問題を自分の問題のように捉えてしまい、相手が困っていると、自分の無力さが理由だという風に、多分勝手に思い込んでしまうんです」
問題解決ができない自分はカッコ悪い。だから問題解決ができるようにアドバイスする。一般的には、アドバイスされたことを相手が実行するかどうかは相手が決めることだ。だが妻がそれをしないと、中川さんは怒り狂った。「アドバイスしたのに、それをしないお前が悪い。アドバイス通りにできないお前が悪い」と責めることで「“自分は正しい”というポジション」を保持したのだ。
妻だけでなく、自分に対して加害していることにも気づいた。