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「物事がうまくいっているときはいいんですが、うまくいかなくなると、『僕なんて価値がない』『生きている意味がない』と感じて苦しむんです。うまくいっている自分が正しい存在で、うまくいっていない自分は間違った存在。自分にも他人にも、“不完全さ”が許せなくて、弱音を吐くこともできない。だからお酒を飲むんです」

 うまくいかないときは、ひたすら自分を責め続けていた。なぜそうなったのか。

「ダメな自分や、耐え難いほどの苦しみを抱えている時の自分を、誰も受け止めてくれなかったからです」

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 受験に失敗したとき、それは顕著に現れた。母親は中川さんの気持ちに少しも寄り添わないどころか、落ち込む中川さんを迷惑そうになじった。

「『素晴らしい人間じゃないと一緒にいてくれない』から、『自分はすごい人にならなきゃいけないんだ』と思い込み、常に頑張り続けてきました。だけどそんなの不可能です。そのギャップに耐えられない時に、人によってはアルコールやギャンブル、買い物やSNSやFXなど、いろんなものに依存して、脳を忙しくしたり、何も考えられないようにする。暴力もその一つです。怒鳴ってるときってめちゃくちゃ興奮して、頭が真っ白になるんです。暴力もDVも、虐待的な関わりは全部依存に近いと思います」

 そうした「トラウマ」は、なぜ「連鎖する」のだろうか。

「『悲しみと一緒に生きる力を持てない』。これがトラウマが連鎖することの正体だと思います。依存症とか暴力とかDVとかの本質にあるのは、『不条理や悲しみ、苦しみがあることを認められない、一緒にいることができない』ということであり、それが最も根本的な意味で連鎖しているのではないかと思います」

『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』より

 中川さんは他者を道具とみなし、人生は完全にコントロールできるものだと思っていた。中川さんの中には完璧な計画があり、それを乱されると「合理的じゃない」「事前に備えておけよ」と言って、怒りとして表現した。乱されると、“不安”になるからだ。飲酒はそうした“不安”を直視しないためだった。

「人生はそもそもアンコントロール。できないこと、しかたがないこと、不条理を受け入れて、~するべき、の“べき”を取り払ったら弱音を吐けるようになりました。自分を受け入れられるようになったら生きやすくなり、他者の弱さや不完全さも受け入れられるようになりました」

 アルコール依存症だった中川さんは徐々にアルコール度数を下げていき、2021年5月には断酒することができた。

「『トラウマの連鎖』を止めるには、その傷つきを認めることです。一番わかりやすい例は、『愛してるなら私の全部を受け止めてくれるはずだ』という幻想。これが一番深い傷つきになるんです。本当は誰も、親子ですら全部は受け止められない。なぜなら、『あなたも相手を、全部は受け止められてないでしょう?』……。お互いに、『できる範囲のことしかできない』ということに気づくと、傷つきが激減します。

 もうひとつは、その傷つきを誰かと共有する、分かち合うことだと思います。『親の苦労、子知らず』という言葉がありますが、子どもは知らなくていいんです。毒親かそうじゃないかの差は、親の苦労を子どもに分からせようとするかしないかだと思います。友だちとか専門家など、対等な関係で分かち合うことが大事。あとはセルフケアです。これが連鎖を止めるということの、とても重要で本質的なアプローチだと思っています」

『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』より

『トラウマの連鎖』を止める鍵

 現在中川さんは、両親と連絡を取っていない。

 4年ほど前、母親の病気が再発したという連絡を受けて会いに行き、大喧嘩をして別れた。帰り際、「依存症やアダルトチャイルドなどの知識を身につけて欲しい」とLINEで伝えたところ、母親はそのことに触れず「今日は来てくれてありがとう」とだけ返事が来た。中川さんは、「本当に何も伝わっていない。この人はわからないんだ」と愕然としたという。

「母は僕が家出をしたときも、絶対に僕のSNSやブログを見なかったと言っていました。なぜなら、『悪口を見るのが嫌だから』。自分が傷つくのが嫌で、息子の傷つきを知ろうともしない。悪口だとしても、それを学ぶことで、自分はこれからどう変わっていけばいいのか。どんなふうに謝ればいいのかのヒントを得ることもできると思うんですが……」