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自称・グルメの勝手な妄想

 以前、俺は自称・グルメの人にあるお店を強く推薦されたことがある。「あそこの定食屋、行ったことあります? 店自体はボロボロで汚いんですけど、逆にそれがいい雰囲気なんですよ。何よりも絶品なのはアジフライ定食! あの身のふっくらとした感じは、絶対に毎朝、店主が市場で仕入れてきて、一匹一匹、丁寧におろしている。いや、そうに違いない! 一度、食べてみたほうがいいですよ」

 そこまで言うならと、俺はその店に行ってみた。

 昔から外食に出かけると、気になったことは遠慮なく店主や店員に質問してしまう癖があるので、さっそく定食を持ってきてくれた店のオヤジさんに「このアジって、毎日、わざわざお店でおろしているんですか?」と聞いてみた。すると、オヤジさんは「へっ?」と困惑した表情を浮かべて、こう答えた。

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「おろすも何も、ウチはもう何十年も前から、冷凍食品のアジフライを買ってきて、それをここで揚げているだけだよ。下味もなんにも付けてない。だって、そのほうが味も安定するし、何よりも安く上がるじゃない。そもそも揚げたてのアツアツを食べたら、なんだって旨く感じるんじゃないの?」

 自称・グルメは勝手に妄想したことを「そうに違いない!」と信じ込み、それをあちこちで喧伝(けんでん)していただけだった。おやじさんに確認すれば、3秒でわかるのに、それすらもせずに「俺がそう感じたんだから、それが正解なんだ」という恐ろしいまでの自信。そういう人の言葉に踊らされて、ラベリング効果が形成されていくのかと思うと、ちょっと薄ら寒さすら感じてしまう。

 ウチの店でも、こんなことがあった。