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頭ごなしの対話は、若い人の発想力を奪う

 しかしながら、この提言を聞いたとき、私は雷に打たれたような気がした。

 なぜなら、私の研究の立場からは、「真理」のど真ん中だったから。今まさに、世界中のチームが身につけるべき資質。さすがグーグル、本当にいい企業なんだなぁと、ため息をついた。

 ヒトは、発言をして嫌な思いをすると、やがて発言をやめてしまう。「こんなこと、上司に言ったって、頭ごなしに否定されるだけ」「親に言ったって、説教食らうだけ」「妻に言ったって、イラつかれるだけ」「夫に言ったって、皮肉が返ってくるだけ」-そんな思いを何度かすれば、浮かんだことばを呑み込むようになる。

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 最初の何回かは、浮かんだことばを呑み込むのだが、やがて、その人の前ではことばが浮かばなくなる。つまり、「感じる領域」と「顕在意識」を遮断してしまうのである。それは、とりもなおさず、発想の水柱を止めてしまうということ。つまり、いきなりネガティブな反応を返されると、ヒトは発想力を失うのである。発想力だけじゃない、自己肯定感まで下げてしまう。

 グーグルは、斬新な発想で、今までにない世界観を作り上げてきたデジタル企業だ。

 こんな企業で、若い人たちの発想力を止めてしまったら、それこそ致命的なのである。

 もちろん、同じことが家庭にも言える。大人たちの、良かれと思って繰り出す「いきなりのダメ出し」が、子どもたちの発想力に蓋をしてしまうのである。同時に、自己肯定感も低くなってしまう。このあと詳しく述べるが、AI時代に突入し、人類に必要な資質は、発想力と対話力、そしてそれを支える自己肯定感に集約してきている。

 今、どんな英才教育より、子どもたちの心理的安全性を確保しなければならない。

写真はイメージ ©AFLO

 この話をすると、「俺たちの時代は、違ったよなぁ」とつぶやく方がいると思う。

 私たちが育った時代はもとより、私たちの子育ても、躾とエリート教育に彩られていたものね。

 20世紀は、親も学校の先生も、スポーツの指導者も、子どもの口答えを許さない。

 誰もが認める一般論的な理想像「お行儀よく、成績がよく、目上の人に逆らわず、タフな実行力にあふれている」を目指して、決めつけの教育が施されてきたのである。

 部活のコーチに「うさぎとび100回!」と言われたら、「それって、何になるんですかね。どこの筋肉に効くの? 膝を痛めるリスクもありそうだし」なんて発想や危機回避をしてはいけないのが20世紀だったのである。