生成AIと呼ばれる人工知能がビジネスシーンでも用いられるなど本格的に突入したAI時代。そんな新しい時代を生き抜く子供たちに求められるのが「自己肯定感」だ。20世紀の「躾けていい子にする」子育て法はもはや通用せず、これからはAIにとって代わられない「個性を発揮する」子に育てること。そこで求められるのは「子供の気持ちに寄り添い、その言動にイラつかない子育て役」…まさに祖父母だ。

 祖父母がAI時代を生き抜く孫たちにすべきことを示した『孫のトリセツ』(扶桑社)より一部抜粋して紹介します。(全3回の2回目/最初から読む)

心理的安全性

 ここ数年、企業の人事部で「心理的安全性」というキーワードが話題に上っている。グーグルが4年にも及ぶ社内調査の結果、効果の出せるチームとそうでないチームの差はたった一つ、心理的安全性(Psychological safety)が確保できているか否かだ、と言い切ったからだ。心理的安全性とは、「なんでもないちょっとしたことを無邪気にしゃべれる安心感」のこと。つまり、脳裏に浮かんだことを素直に口にしたとき、頭ごなしに否定したり、くだらないと決めつけたり、皮肉を言ったり、無視したりする人がチームにいないことである。結論がなくてもいい、なんなら、その言葉が浮かんだ意図さえも把握できていなくていい。たとえば「さっき、駅の階段でつんのめって怖かったんです(別に落ちたわけじゃないけど)」とか「今朝、夢を見たんですよね(何の夢か覚えてないけど)」のような、オチも結論も対策もない話が抵抗なくできること―それが心理的安全性である。

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写真はイメージ ©AFLO

 数年前、グーグルがこのことを提唱したとき、日本の優良企業は、皆それをキャッチアップしたのだが、なかなか咀嚼できなかったようだ。天下のグーグルの、精鋭チームに必要な唯一の資質が、戦略力でも調査力でも開発力でも実行力でもなく、「なんでもしゃべれる安心感」だなんて……世界を制覇した成果と心理的安全性がどうつながっているのか、それがまったく見えないからだ。結局、「心理的安全性」を「風通しのいい職場」と解釈して、「風通しのいい職場に。ハラスメントをゼロに」というキャンペーンに代えて、お茶を濁している企業も少なくなかった。

 そうはいっても、今さら「風通しのいい職場」なんていうことを、天下のグーグルが世界的に発表するだろうか。グーグルの提言の熱意と、「風通しのいい職場」という帰結のぬるさ。その温度差に、なんとも腑に落ちない、落ち着かない。それが、大方の日本の企業人の感覚だったようだ。実際、ネットで「心理的安全性と、ぬるい会話をどう区別したらいいんだ?」という議論が交わされたりしている。