デビュー作はオーディション前からヒロイン役に決まっていた
薬師丸は中学2年生のとき、映画『野性の証明』(1978年)のヒロイン(主演の高倉健の娘役)を選ぶオーディションに合格し、角川春樹事務所では初の専属俳優としてデビューした。映画撮影前には、演技経験を積ませるとともに顔と名前を売るため、本名の「薬師丸博子」名義でテレビドラマ『敵か? 味方か 3対3』に出演している。
じつは『野性の証明』のオーディション前から、角川春樹はヒロインは薬師丸で行くつもりでいたらしい。
昨年、「文春オンライン」で配信された記事によれば、角川が薬師丸を知ったのは、銀座の高級クラブ「順子」のオーナーである順子ママから見せられた1枚の写真によってだった。それは、クラブのスタッフから、青山の中学校のそばを信じられないほどかわいい女の子が歩いていたとの情報を聞きつけ、ママが撮らせたものだった。
角川は写真を見せられると、真顔になって「ママ、この写真、ちょっと貸してもらえないかな」と頼み込んだという(欠端大林「薬師丸ひろ子(58)のデビューが決まった銀座・高級クラブの“伝説の夜” 角川春樹が真顔で『ママ、この写真、ちょっと貸してもらえないかな』と」、2023年4月15日配信)。
『野性の証明』への出演でやめるつもりだった
どうやらこの写真が『野性の証明』のオーディションに回されたらしい。薬師丸は芸能界入りのきっかけを《たまたま私の写真を撮った人がいて、その方が私の知らない間にオーディションに応募していたんです》と語っているが(中川右介『角川映画 1976-1986 日本を変えた10年』KADOKAWA、2014年)、順子ママの証言でそれが裏づけられたことになる。オーディションでは最終選考に9人が残ったが、角川が強く薬師丸を推して決まったといわれる。