NHKBSプレミアムで再放送されている、“朝ドラ”こと連続テレビ小説『あまちゃん』(脚本:宮藤官九郎)は、2013年の本放送から10年経ってもまったく色褪せていない。それどころか、10年後の現在を照射している気さえする。

 例えば、主人公・アキ(のん 当時は能年玲奈)がアイドルになり、有名女優・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)とダブル主演に抜擢された映画『潮騒のメモリー〜母娘の島』では、鈴鹿演じる母親役が疫病に倒れる。10年前は、東日本大震災で被害にあった東北を舞台にした応援ドラマの色が濃かったので、そこはスルーだった視聴者も多かったと思う。それが2023年の今、「疫病」と聞くと、ピクリと反応してしまう。自然災害や疫病や戦争は人類の歴史の中で繰り返し繰り返し起こっているのだと実感するなんて、まさに劇中歌である『潮騒のメモリー』の歌詞「寄せては返す波のように」である(ただし『あまちゃん』には戦争はない)。

 2011年に起きた東日本大震災を受けて、東北を応援しようという趣旨もあって制作された『あまちゃん』は、脚本の宮藤官九郎が宮城県出身であったため、東北のいいところはもちろんのこと、当事者的にちょっと残念と感じるところを率直にユーモラスに描き、それが逆に多くの視聴者に支持された。東日本大震災から12年が経ちながら、復興にはまだまだ課題が残っている今も、『あまちゃん』は応援ドラマとして有効である。いや、東北に限らず、何らかの出来事によって闇落ちしそうなあらゆる人たちの救いになっている。暗闇に手を差し伸ばす人物は、ほかならぬ主人公・アキである。

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主人公の天野アキを演じたのんと、アキの祖母「夏ばっば」こと天野夏を演じた宮本信子(左) ©文藝春秋

「個性も華もないパッとしない子」だった主人公・アキ

 ドラマの序盤では、アキは「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華も無いパッとしない子」と母・春子(小泉今日子)に言われるような、むしろ闇側にいた。それが、生まれ育った東京・世田谷から母の地元・北三陸に来たことで変わっていく。地元の人たちに育まれすっかり明るくなったアキが、今度は地元に恩返ししていくことに。いや、恩返しという認識ではなく、単純に好きな人や場所のために張り切って行動するだけなのだが、だからこそ、その純粋性が何にも代えがたい光となる。