20代最後の今年、主演した映画『天間荘の三姉妹』で出会った名優たち、そして今までに共演したミュージシャンに大きく影響を受けたと語る、のん。彼女らとの共演を糧に30代で見せたい新たな姿とは――。(全2回の2回目/#1を読む)

©文藝春秋 撮影/鈴木七絵

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あの言葉で自由になれた。迷わずやれる自分になれた

――16年の主演作『この世界の片隅に』は戦時中の広島の物語で、最新主演作『天間荘の三姉妹』では終盤で震災が関わってきます。21年に自ら監督・脚本・主演を務めた『Ribbon』はコロナ禍を生きる美大生の物語でした。20代のなかで、時事をどう意識し、自身の表現に生かしてこられましたか?

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のん 難しいですよね…。世の中ではコロナや戦争とか心を閉ざしたくなるようなことが重なるし、「困っちゃうな」と思う場面もたくさんあるし。でも、私はせっかくこういうお仕事をしているので、自分がどう表現を打ち出して、どう振る舞ったらみんなが元気になってくれるのか? 笑顔になってくれるのか? という点をいつも一番大事にしてきました。

自分の思いとみなさんの求める思いが一致しているかどうかも、かなりシビアに意識してきたつもりです。

――共演以来ずっと親交が続いている小泉今日子さんや、ライブで共演されているミュージシャンの矢野顕子さんといった先輩がたとの出会いも、のんさんの20代において大きかったんじゃないでしょうか。

のん 本当にそうですね。矢野さんと対談させていただいたとき、「自分がやりたいことがあったら、それを諦めずにやり続けて、周りの方に諦めてもらえばいいのよ?」とおっしゃっていただいて。

――すごいインパクトの言葉ですねえ。

のん すごいですよね(笑)。私はそれまで、「見返してやる」とか「自分の表現を叩きつけてやる」みたいな気持ちもすごくあったんですが、「周りに諦めてもらう」という考え方を聞いたとき、「そんな方法もあるのか?」と目から鱗が落ちて(笑)。

ものすごく矢野さんらしい考え方だし、もちろん矢野さんの才能だからこそ言えるひと言だというのも分かるんだけど、何だか異常に納得できたし勇気付けられちゃって。あのひと言でより自由になれたというか、やりたいことを迷わずやれる自分になりましたね。