父が倒れ、母が家出し、震災があって……
アキが救うたくさんの人たちのなかに、親友のユイ(橋本愛)がいる。アキの憧れの存在であり、自信に満ちてキラキラしていたユイが東京に行こうとするたび、父が倒れ、母が家出し、震災があって……と次々とアクシデントに見舞われ、望みが叶わない。グレてキャラ変したり元に戻ったり、なんだかんだと折り合いをつけながら地元に残るユイに、アキは寄り添い続ける。ユイの姿が、日々の生活のなかでなんらかの悲しみを抱く視聴者ひとりひとりに重なり、アキがユイをリスペクトし支え続ける物語は、多くの人が黒い影に飲み込まれそうになることを救う。
のんという俳優の頼もしさ
光の申し子のようなアキを演じきったのんは、『あまちゃん』放送当時、フレッシュな新鋭として注目されていた。朝ドラは近年、ある程度の実績のある俳優がオファーされるケースが増えたが、そもそもは新人がオーディションを受けて大抜擢されることが多い。未知なる新人が半年もの間、ベテラン俳優に支えられ、揉まれ、育まれて成長していく様子を、視聴者が我が子や我が孫のように見守ることが朝ドラの楽しみのひとつである。
2006年にモデルとして、2010年に俳優としてデビューしたのんは、まさに従来のフレッシュな朝ドラヒロインそのもの。1953人が応募した朝ドラオーディションで抜擢されたのだ。ところが、いま見返すと、のんはフレッシュではあるが、といって、いわゆる新人然としてたどたどしくは決してないのだ。むしろ、ものすごく頼もしい働きをしている。
例えば、第110回。東京に戻り芸能活動をしているアキのエピソードでは、「なんでも食べます」と営業まわりする顔、アイドル評論家・ヒビキ一郎(村杉蝉之介)に対抗心を燃やす顔、ミサンガが切れて嬉しい顔、マネージャーの水口(松田龍平)の営業の収穫がなかったことを一目瞭然で感じたときの顔、澄まし顔、GMT5のライブを見て遠くに引き離された気持ちになったときの下がった目尻、ここがふんばりどころだぞと種市(福士蒼汰)に励まされ恋の病が蘇るときの瞳の輝き……と、のんの表情が実に多彩なのだ。
演技に慣れない新人の、素直な反応とはまた違う、技能が備わって感じるのは、当時から今も変わらず彼女を支えている演技の先生・滝沢充子の指導の賜物だろうか。