日本は法治国家だ。裁判は法と正義にのっとり公正に行われる。判決は事実に基づき結論が出される。……そう信じている方にぜひこの番組をオススメしたい。いかに非合理でご都合主義の“暗黒裁判”がまかり通っているのか、強い衝撃を受けるだろう。
(文中敬称略)
「裁判では科学が都合よく編集されてしまう」
6月30日に放送されたNHKスペシャル『法医学者たちの告白』。犯罪の疑いがある遺体を解剖し死因を調べる法医学者たちが、捜査や裁判の矛盾を告白、というより“告発”している。
核になるのは2005年、栃木県旧今市市(現日光市)で小学1年の女児が行方不明になり、翌日茨城県内の山林で遺体が見つかった「今市事件」だ。事件から9年後に逮捕された勝又拓哉は裁判で「自白を強要された」と無実を訴えた。「遺体の発見現場付近で女児を刺殺した」という自白の信用性が争点になった。
検察は、警察が撮影した現場写真に血液反応を示すとされるルミノール反応が多数見られることから大量の血痕があると主張。しかし、検察に証言を求められた千葉大学法医学教授の岩瀬博太郎は、ルミノールは鉄分さえあれば反応を示すことを前提に慎重な言い回しをした。
「ルミノール反応が本当に血液に反応してるかは問題がありますが、血液だとすれば、それなりに広い範囲に血が落ちてるという印象は受けます」
つまり「これは本当に血液なのか?」と留保を付けたのだが、裁判所は「大量の血痕がある」と解釈して無期懲役の判決に。岩瀬は「裁判では科学が都合よく編集されてしまう」と嘆く。
「日本の裁判って外国から見たら中世並み」
二審で弁護側の依頼を受けた元東大法医学教授の吉田謙一は、現場の落ち葉の鉄分にルミノールが反応することを実証。一審判決に矛盾があることを立証した。ところが、裁判長は「訴因変更」という手続きで、殺害場所について当初の主張を変更するよう検察に促した。殺害場所は「遺体発見現場付近」から「栃木県か茨城県かその周辺」と大幅に広げられた。その上で判決は、殺害現場についての自白はうそだった疑いがあるとしながら、殺害を認めた部分は信用できるという理屈で、再び無期懲役に。吉田は憤る。
「裁判は事実認定の場だということをほとんど無視している。日本の裁判って外国から見たら中世並みとか“暗黒裁判”って言われるけど、まさにそう。科学鑑定はまったく無視された」