「その可能性も否定できません。でもこれは捜査員のDNAの混入があることを大きな理由として、裁判では法医学者の見解を排斥しています。DNAの再鑑定を行うなど、もっと科学的な証拠と向き合うことが必要だったのでは。これも科学の扱いが軽視される日本の裁判制度の矛盾ですよね」
映画化の話はある?
番組を観ながら私は一つ気になることがあった。映画『正義の行方』は全編ナレーションを使わず、実際に記録された音声や字幕スーパーなどを使って状況を説明する「ノーナレ」という手法で制作されている。これが作品を観ながらストーリーに入り込んでいく緊張感とドライブ感を生んでいた。ところが、今回のNスペはノーナレではなく通常通りのナレーションがつかわれている。
「これは尺(長さ)の問題ですね。ある程度長い時間がないとノーナレで構成するのは難しい。『正義の行方』は158分。今回のNスぺは59分です。通常は49分ですから、これでも無理して『サンデースポーツ』を後ろにずらして10分足してくれたんですけど、それでも伝えたい情報の複雑さからしてノーナレは無理ですね。これも映画化できるんならノーナレを探りたいと思います」
――映画化の話はある?
「私はやりたいですけど、こればっかりは後押ししてくれる方が映画界に現れないと」
この国の裁判(justice)に正義(justice)はない
――法医学者の告白を通してえん罪を描くという、これまでにない斬新な手法ですから、映画になったらさらに興味深いでしょうし観てみたいですね。
「『正義の行方』では警察、弁護団、報道機関、それぞれの立場をバランスよく伝えました。一方、今回のNスペは法医学者の苦悩を通してではありますけど、裁判批判というか、物申す的なニュアンスが強いと思うんです。そこが映画としてどうかというところもあるでしょうね。でも私は特定の事件が無罪か有罪かを訴えたいわけではなくて、あくまで日本の裁判制度に問題があるということを伝えたい。番組でアメリカのケースを取り上げてますけど、アメリカが優れているというより、日本が遅れてるんです」
――では、次回作でもそこを掘り下げるんでしょうか?
「せっかく法医学の皆さんにリスクを背負って取材協力していただいたので、映画化もそうですけど、別の形でも何とか伝えていきたいです。続編を作るとか」
NHKスペシャル『法医学者たちの告白』は7月13日(土)深夜(14日未明)0時50分から再放送される。その後は1週間、NHKプラスで見逃し配信されるから、ぜひご覧いただきたい。この国の裁判(justice)に正義(justice)はない、ということを実感するはずだ。えん罪は決して他人ごとではない。