「そもそも人とどう付き合っていいかわかっていない。だから先生が既存の友達の輪に入れても仲良くできないんだ」(50代・保育園の園長)…令和を生きる子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなってしまった理由とは? ジャーナリストの石井光太氏の新刊『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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公園で立ちすくむ園児
東京都の保育園で働く40代の女性の先生の体験談を紹介しよう。
この先生は、短大を卒業後、4年ほど保育士として働いていたが、結婚を機に専業主婦をしていた。子育てが一段落した頃、元同僚で、今は園長になった先生から園で働かないかと声がかかり、20年ぶりに保育士として復職したのだ。
その保育園は、駅前の商店街のビルの中にあった。園庭がないため、外遊びをするには「お散歩カート(柵付きの台車)」に子どもたちを乗せ、近所の公園まで連れて行かなければならない。
そうやって公園に到着し、子どもたちをお散歩カートから降ろした時、先生の目の前には20年前とはまったく違う光景が広がった。子どもたちが無表情で立ちすくみ、動こうとしないのだ。
保育士になったばかりの時の経験では、先生が遊び場へ連れて行くと、子どもたちは大声を上げて駆けだし、思い思いに好きな遊びをしたものだった。何人かは追いかけっこをし、何人かは砂場でおままごとをし、何人かは虫探しをする。外遊びの時間が過ぎて、先生が「帰りますよ」と声をかけても、みんな聞こえないふりをして遊びつづける。
しかし、久しぶりに見た子どもたちは違った。何人かがとぼとぼと遊具の方へ向かっただけで、半数以上の子たちは何をしていいかわからないといったようにじっとしているだけなのだ。
先生は動揺して言った。
「何でも好きなことしていいのよ。ボール持ってきたからこれで遊ぶ?」
子どもたちは反応を示さない。中には「疲れるから嫌」と言う子もいた。先生が手を取って滑り台へ連れて行っても、彼らは興味なさそうに淡々とこなすだけだった。この日の夕方、保育園のミーティングで、先生は公園での出来事を話した。すると、園長から次のように言われた。
「今の子どもは、あなたが知っている時代の子どもとはまったく違うと考えてください。彼らは外で自由に遊んだ経験がないので、遊び方がわからないのです。大人がルールを教えて、これをこのようにしなさい、と言えばやれるのですが、自分で遊びを考えて、みんなとルールを共有してやるといったことができない。だから、公園に連れて行くだけでは、どうしていいかわからずに戸惑ってしまうのです」