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公園に連れて行っても“無表情で立ちすくむ”だけ…今の子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなった恐るべき理由

『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』より #1

15時間前

genre : ライフ, 教育, 社会

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 昔は“遊ぶのは子どもの仕事”と言われていた。子どもは遊び道具がなくても、公園に落ちているビニール袋や、木の枝を見つけて、そこから自分たちで遊びを考え出したものだ。「缶蹴り」などはそうやって生まれた遊びだろう。それが一体どうしたのか。

 先生は戸惑いながら尋ねた。

「公園で私の方からタスケ(三歩ドッジボール)などいくつかの遊びを提案しました。でも、乗ってくる子はどれも2、3人で、みんなで何かをやろうということになりませんでした。あれはなぜなんですか」

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 園長は答えた。

「昔はタスケを知らない子でも、知っている子にルールを教わってやっていましたよね。でも、今の子はコミュニケーションを取るのが苦手で、やり方を教えてくれと言ったり、ルールを他の子に説明したりすることができません。だから、先生が個別にやり方を教えた上で先導しなければ、なかなか動こうとしないのです」

 友達の輪を作れない。そう言われ、先生は20年ほどの間に保育の仕方がまったく変わったことを認めざるをえなかった。

遊ぶのが恐ろしい

 今回インタビューをした保育園、幼稚園の先生たちの大半が、「遊び方を知らない子どもが増えた」と口をそろえた。

 本来、遊びの形なんてあってないようなものだろう。全国的に広まっている定番の遊戯はあるにせよ、子どもたちにしてみれば、公園でも道路でも思い思いに好きなことをやって、楽しいと感じれば、それはすべて遊びだ。その点において子どもは遊びのプロなのだ。

 

 しかし、その遊びができない子が増加しているという。先生方はどういうところからそれを感じているのか。2人のベテラン先生の言葉を紹介しよう。

 まずは、保育園の園長(関東、50代男性)の言葉である。

「人と遊ぶことが苦手な子が増えたね。昔の子には、どんなことでもみんなでやるのが楽しいという共通感覚があった。だから、子どもたちは自然と友達の輪を作り、自分たちで遊び方を決めて、ヘトヘトになるまでやった。けど、今は一人遊びをすることが増えた。友達の輪を作らないで、けん玉や積み木のように単独でできることを黙々とやる。こういう子たちは、人と遊んだ経験が少ないので、周りの子たちと一緒に何かをすることに興味を持てないんだと思う。そもそも人とどう付き合っていいかわかっていない。だから先生が既存の友達の輪に入れても仲良くできないんだ」

写真はイメージ ©getty

 次は、別の園長(関東、40代女性)の言葉だ。

「知らない遊びをするのを怖がる子が多くなりました。家でやったことのある遊びなら普通にする。でも、友達が新しい玩具を持ってきたり、新しい遊びをやろうと持ちかけたりしても、黙ってじっとしている。なんでやらないのかと尋ねると、そういう子は『(遊び方を)知らないから』と答えます。新しいことに興味を持って、やり方を教えてもらおうという意欲がないのです。

 私の推測ですが、そういう子たちは自分で楽しいことを見つけ出して、ドキドキしながらやった経験が乏しいんじゃないでしょうか。新しいものを発見する喜びとか、それをする時のワクワク感を知っている子は、どんどん新しいことをやろうとしますが、その経験がない子は見向きもしないのです」

 他にも大勢の先生方が、遊ぶことに消極的な子が増えていると指摘していた。遊びに対する考え方や価値観が変化しつつあるのかもしれない。

ルポ スマホ育児が子どもを壊す

ルポ スマホ育児が子どもを壊す

石井 光太

新潮社

2024年7月18日 発売

公園に連れて行っても“無表情で立ちすくむ”だけ…今の子どもたちが「ボール遊び」も「缶蹴り」もできなくなった恐るべき理由

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