「私、頭がおかしくなった。何もできなくなった」
夏休みが明けて2学期が始まっても、マサミさんの様子は戻らなかった。
「『私、頭がおかしくなった。何もできなくなった』と言っていました。『本当に大丈夫?』と聞いても、『大丈夫』と言うだけ。学校から帰るとリビングで過ごしていたのに、逃げ込むように自分の部屋にこもるようになりました。親と話すときも、おどおどしているというか、目を見て話さなくなったんです。
マサミの部屋はリビングの上にあるのですが、友達と遅くまで話している声が聞こえることもありました」(母親)
マサミさん自身も両親に心配されていることはわかっていたが、自分が我慢するしかない、と思っていたという。それでもAとの交際の話は母親にしていた。
「マサミから恋愛の相談をされることがあり、Aのことも話していました。最初は『家の手伝いをしている』など他愛もない話でしたが、徐々に『俺の親には力がある』『俺の親は公務員だ』など自慢話が増えてきたと言っていました。
また力比べのようなことをしたがり、マサミの手のひらをAが拳でたたき、『お前には力がない』『お前は弱い』と言ったと聞いた時はぎょっとしました」(母親)
性被害に加えて精神的にも圧迫を受けていたが、マサミさんとAの交際は一応続いていた。どういう心理状態だったのだろう。
「『別れたい』と何度も言ったんですが、Aは『別れたら自殺する』と」
「Aに対して最初は恋愛感情がありましたが、途中からは怖い気持ちが大きくなっていました。『別れたい』と何度も言ったんですが、Aに『別れたら自殺する』と泣かれてしまい会話にならないので、離れることができませんでした。今思えば言葉だけだったとわかるんですが、当時はもしAが自殺したら、Aの親に何かされると思っていました」(マサミ)
Aはマサミさんに対して力を誇示する一方で、「お母さんがご飯を作ってくれないから家事は自分でする」「おばあちゃんが足をけがして買い物に行けなくなったので、自分で買い物に行く」など、いかに自分が可哀想で苦労しているかということを折に触れてアピールをしてきたという。