一緒にディナーショー
でも実は、2人だけでディナーショーをやったことがあります。神奈川県の相模原でした。ところが、絡む場面がありません。お客さんは当然、僕がものまねをして淡谷先生からコテンパンにやられるところを観たいわけです。興行主も「ちょっとでいいから、お二人で話してください」とお願いしたんですが、先生は「それなら帰ります」。
お考えはわかりませんが、馴れ合う姿を見せたくなかったのかもしれませんね。2回公演でしたけど、1回目のステージは僕が先にやって淡谷先生が後。2回目は「私が先にやる」とおっしゃったのは、早く帰りたかったんでしょう(笑)。
『ものまね王座決定戦』には、淡谷先生と僕の二人三脚みたいな面があったと思います。全員が笑っているままだったら、どんどんやり過ぎてしまい、ものまねというジャンルが飽きられて終わっていたかもしれません。厳しい淡谷先生が審査員にいて、初めて成り立っていたんです。お葬式に伺ってお別れをしながら、「淡谷先生との掛け合い漫才も終わったんだな」と感じました。先生が亡くなって、僕を𠮟って芸を磨いてくださる方もいなくなりました。
昭和のテレビは、前例がないから全て手探りでした。ところが平成になる頃から、何をやってもパターンが見えてしまうようになった。みんなで面白いものを目指す時代を過ごせたことは、本当に幸せです。
◆
本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(淡谷のり子 あんた帰りなさい)。
「文藝春秋 電子版」では、大特集「昭和100年の100人 激動と復活編」を展開中。昭和の忘れがたい人物100人の「本当の姿」を、意外な著名人、親族が紹介しています。
「三島由紀夫 あそこだ、空飛ぶ円盤だ!」横尾忠則
「宮本常一 土佐源氏をアニメに」鈴木敏夫
「井伏鱒二 すげぇ小説」町田康
「力道山 俺の笑顔は千両だろ」田中敬子(妻)
「淡谷のり子 あんた帰りなさい」清水アキラ
「美空ひばり 錦之介さんの口紅」石井ふく子
【文藝春秋 目次】昭和100周年プレ記念大特集 昭和100年の100人 激動と復活編/豊田会長「トヨタ認証不正の真相を語る」/健康診断は宝の地図だ
2024年8月号
2024年7月10日 発売
1450円(税込)