80年代、人気番組『ものまね王座決定戦』(フジテレビ)で、下ネタに厳しい評価を下す審査員がいた。NHKの朝ドラ『ブギウギ』でも注目を浴びた“ブルースの女王”淡谷のり子(1907〜1999)だ。中でも、特に酷評されていた清水アキラ氏が、その素顔を語る。

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「あんた帰りなさい」

 新しいネタを披露するたび、「淡谷先生はなんておっしゃるだろう」と気になっていました。ものまねを知らない世界の人から評価されてこそ、価値があるからです。

 審査員の持ち点は1人10点ですが、淡谷先生は僕にはいつも8点。よくて9点しかくれません。たまに真面目にやると、いつもの仏頂面がニコニコ顔に変わって「ちゃんとやればできるのよ」と褒められました。

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 下ネタなしで研ナオコさんの『夏をあきらめて』をやったら、「それでいいのよ」と言われて、10点満点を頂戴しました。淡谷先生は機械が苦手ですから、いつも隣に座っている女優の生田悦子さんが、代わりに採点ボタンを押していました。あのときは、生田さんが間違えて10点を押してしまったという説もあるんですが、真相は違います。

淡谷のり子 ©文藝春秋

 あとでお礼を言いに行ったら、淡谷先生は「間違えちゃった」とおっしゃった。ご自身がそう言うことで、話を面白く膨らませていたんです。本当は優しい人だけど照れ屋ですから、ぶっきらぼうなキャラを演じていらしたんですよ。

 本番前にスタッフもいる場所で、「先生、清水です。今日もよろしくお願いします」と挨拶したら、「あんた帰りなさい」と言われたこともあります。僕との関係性を踏まえて、厳しく振る舞っていらしたんでしょう。僕もその関係を保つために親しくお話しすることは控えました。