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「アドレナリンが出るのかな。しゃきんとするのよ」
そして――。小倉さんは今回、「週刊文春」で大野さんの「余命1カ月」の日々について綴る。
〈細くなった腕を伸ばしてマイクを握ると、大野寿子はこう切り出した。
「すっごい楽しみにして、ここに来ました」
顔にははち切れんばかりの笑みが浮かんでいる。
白いシャツに青のカーディガンをはおり、黒いロングスカート。髪は若い頃からショートで、最近は染めなくなったため、輝くようなグレイヘアである。
7月6日。神戸・三宮近くのキリスト教施設には約60人の聴衆が詰めかけた。「夢に向かって一緒に走ろう」と題した講演だった。
笑みには理由があった。大野は末期の肝内胆管癌で、6月末には医師から「余命は1カ月ほど」と宣告されている。来られるかどうか最後まで不安だったのだ。実際、体重はかつての50キロから40キロに減り、157・5センチの身長にしてはかなり細い。衰弱は確実に進んでいる。
この日の神戸は最高気温が34度にもなった。普段は千葉県浦安市の自宅で、介護用ベッドに体を横たえている。それでも講演では、不思議と元気になる。
「アドレナリンが出るのかな。しゃきんとするのよ」
さすがに9月に予定していた講演は無理と判断した。この神戸が生涯最後の講演になりそうだった。