「その中で書かれた子どもたちのメッセージを、生きるということのメッセージを伝えたい。この子たちの思いを伝えたいという気持ちがとってもありました。そのために是非この本をたくさんの人に読んでもらいたいと思いました」

 難病の子どもの夢を実現させる非営利団体「メイク・ア・ウィッシュ」の“伝道師”として30年間、3000人の夢に寄り添ってきた大野寿子さん(おおのひさこ、73)。彼女ががんで余命1カ月と宣告されたのは、今年6月26日のことだった。

大野寿子さん ©文藝春秋

 体力の限界を迎え、講演はまもなくできなくなる。そこで浮かんだのが、自著『メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた』を希望者に無料で配ることだった。彼女はこの計画を“最期の大野プロジェクト”と名付け、「余命1カ月」を生き続けている。冒頭の言葉はその最後の計画を始めた理由について聞いた時のものだ――(「週刊文春電子版」でインタビュー動画を無料公開中)。

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「メイク・ア・ウィッシュのことを伝えたい」

 7月18日発売の「週刊文春」並びに「週刊文春電子版」で始まったドキュメント連載「『難病の子どもたちの夢を叶えたい』大野寿子さん余命1カ月を生きる」に大きな反響が寄せられている。

 著者の小倉孝保さんは毎日新聞論説委員。著書『十六歳のモーツァルト』の取材でメイク・ア・ウィッシュを知り、大野さんとの付き合いが始まった。その後メールでやりとりをしたり、講演で会うなどしていた。

 今年5月、大野さんから突然、メールで「がんになった」と連絡があったという。

〈もう命のタイムアウトが見えてきてやりたいことは何かと考えると、メイク・ア・ウィッシュのことを伝えたいという思いです〉(大野さんのメールより)

大野寿子さん、朝男さん夫妻

「最期のプロジェクト」を支援してもらいたいとの思いが綴られていたため、小倉さんはすぐに彼女に会いにいった。そして、6月17日の毎日新聞朝刊の「余録」で次のように大野さんの「最期のプロジェクト」について伝えた。

〈命の残り時間に気付かされた時、人は何が一番大切なのかを知る。千葉県浦安市に住む大野寿子さんにとってそれは、少女や少年が困難を乗り越え、夢に向かって奮闘する姿を伝え、残すことだった(中略)その本人に今年2月、肝内胆管がんが見つかった。腫瘍は約7センチに膨らみ、リンパ節に浸潤していた。手術や放射線治療は不可能である。終末期医療を視野に入れ、自分の夢と向き合った。

 子どもたちを紹介した自著「メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた」はすでに絶版になっていた。できるだけ多くの人に、これを読んでもらいたい。無料(協力してもらえる人には有料)配布を決め、自費で500部刷り直した。

大野さんの自著『メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた』 ©文藝春秋

 大野さんは言う。「病気の子は自分のことでいっぱいいっぱいのはずです。でもみんな誰かの役に立ちたいと思い、心から他者の幸せを願っていました」(以下略)〉

 毎日新聞の記事が話題となり、本を送ってほしいという連絡が次々と入ったという。