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「いくらでもオンナを抱け」「金に困ることはない」コカインの大量密輸で“荒稼ぎ”…麻薬捜査のスパイだった男(63)が、“大物密売人”になった経緯

麻薬取締官のエス(スパイ)となった男 #1

12時間前

genre : ニュース, 社会

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 超大物密売人――そう捜査当局からマークされつつ、麻薬取締官のエス(スパイ)となって暗躍を重ねた男がいる。男の名は渡邊吉康(63)。“カルロス”という通り名で知られる。薬物の密輸で大金をつかんでは酒池肉林の日々を送る一方、生涯の大半は刑務所暮らしという、筋金入りの密売人だった。

 最後には、信頼していた麻薬取締官から裏切られた末に、名古屋刑務所で6年半の独房生活を送った。今回、筆者のロングインタビューに応じたカルロス。薬物で荒稼ぎして逮捕されるまでの、ジェットコースターのような人生のすべてを語り尽くした。(全3回の1回目/2回目に続く)

取材に応じる渡辺吉康元受刑者 ©共同通信社

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サッカー選手の夢破れて…

 1961年生まれのカルロスは、地元では名の知れたサッカー少年だった。

 小学生時代にボールに触れると、すぐにのめりこんだ。実力は全国大会に出場するほどにまで成長した。高校も大学もサッカーのスポーツ特待生として推薦入学。ポジションはMFで、大学卒業後は実業団に入るつもりだったという。

 しかし大学時代の監督とそりが合わず、日本を飛び出してブラジル・サンパウロ州に留学した。同州のサッカークラブ「ポルトゥゲーザ・サンティスタ」に所属し、練習や試合に明け暮れる日々を送った。

 だがある夜、試合後に繁華街へ繰り出していたときのことだった。トラブルに巻き込まれ、何者かに右脚を銃で撃たれたのだ。選手生命はあっけなく絶たれ、「クラブからもらったのは松葉杖ぐらいで、そのままお払い箱になった」とカルロスは言う。

銃で撃たれた右脚(写真=筆者撮影)

ロスで薬物の調達を頼まれ、歯車が狂い始める

 その後、地元に戻ってサラリーマンをしたり、パブの経営をしたりしたがどれもうまくいかなかった。そこで一念発起して渡米し、ロサンゼルスで再起を図った。ロスにはメキシコ人移民が多く、すでにポルトガル語・スペイン語を習得していたカルロスにとって暮らしやすい環境だった。

 まかないやチップを目当てに飲食店の求人に片っ端から応募すると、ある日本食レストランが雇ってくれた。そこで修業を積んだ後、日本人観光客の多いハワイの支店に派遣された。板前の手伝いをしていたという。

 しばらくは真面目に働く日々が続いた。しかしあるとき、日本人客から内密に薬物の調達を頼まれたことで、歯車が狂い始める。

 最初は「なぜ自分が」と困惑した。だがチップをもらって思案した挙げ句、ワイキキビーチにたむろする売春婦に相談することで、なんとか手に入れることができたという。

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