超大物密売人――そう捜査当局からマークされつつ、麻薬取締官のエス(スパイ)となって暗躍を重ねた男がいる。男の名は渡邊吉康(63)。“カルロス”という通り名で知られる。薬物の密輸で大金をつかんでは酒池肉林の日々を送る一方、生涯の大半は刑務所暮らしという、筋金入りの密売人だった。

 最後には、信頼していた麻薬取締官から裏切られた末に、名古屋刑務所で6年半の独房生活を送った。今回、筆者のロングインタビューに応じたカルロス。薬物で荒稼ぎして逮捕されるまでの、ジェットコースターのような人生のすべてを語り尽くした。(全3回の3回目/1回目から読む)

取材に応じる渡辺吉康元受刑者(写真=筆者撮影)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

エス(スパイ)としての最後の捜査協力

 最後の捜査協力となったのが、東海地方のイラン人密売グループの捜査だ。カルロスは説明する。

「うまくいかなかったことが続いて、じゃあ1つぐらい大きなヤマを当てようかってなって、イラン人にしたんですよ」

 2015年4月10日、カルロスは「今から名古屋取引です」とX取締官にメールを送信。この際、X取締官からは「(イラン人グループを)なんとか大阪に来させるように」と念を押されたという。

 イラン人グループとは接触に成功。翌日深夜に結果報告として、仕入れた覚醒剤の結晶をメールで添付してX取締官に送っている。俗に「縦割り」と呼ばれる、高純度な高級品だった。

 カルロスはこうして仕入れた覚醒剤を、トランクルームやスポーツクラブのロッカーに保管した。袋に小分けにした上で、ひとつひとつに「きよみ」「まお」など女性の名前を書き入れて分類していた。

 4月14日夜、X取締官の思惑通り、イラン人グループのリーダーWが大阪に到着。カルロスは喫茶店に連れ出し、あらかじめ指示されていた通り、Wが窓に顔を向けるようにして座った。張り込んでいたX取締官が、顔写真を撮影できるようにするためだ。スマートフォンは通話状態にしてあった。2回目の取引も無事、成功した。