「おまわりもマトリも馬鹿じゃないから、いつか絶対捕まる」
――でも今はもう、そういう時代ではないわけですよね。
カルロス ないね。
――それはどうなんですか? 刹那的でもよかったってことですか?
カルロス そうですね。もう一回、今からっていう気は、全くないですよ。
――若くないし、体力もだんだん落ちていくじゃないですか。そういう意味では、30、40代の脂が乗ってる時に、好きな思いができたっていうことですか?
カルロス そう、短い間だけれど。けど、親方だって何度も監獄に入ってるし。
この世界の人間っていうのは、みんなそうですよ。普通の人間っていうのはそれだけ、危ない橋は渡ってないしね。でも、おまわりもマトリも馬鹿じゃないから、いつか絶対捕まりますね。
――一瞬の夢みたいなものを追い求めているってことですか?
カルロス けど、みんな薬を使っちゃうんですよね。使って、くだらないことで捕まって、 よろよろになっちゃって、体が言うこときかなくなって。大体、薬やってて60ぐらいまで生きてる人間つったら、糖尿病になったとか、目が見えなくなっちゃってるとかが大概だからね。
畳の上では死ねないだろうと思っている
――違法薬物の密売が犯罪になっているのには、薬物依存症者という被害者が生まれてしまうという理由もあるじゃないですか。そういうことはあんまり考えないんですか?
カルロス それは俺も親方に教えてもらったんだけど、「(お前が売らなかったとしても)どのみち、お前以外の誰かが売ってるんだから」と。ただ、もちろんそのことで悩む人間もいる。子どもの時に、薬物に依存している親を見ていた人とかね。
だから、この親方の理屈が正しいどうか、わからない。全くわからないけど、これでもう納得するしかないと思っていた。
――でもその理屈は、世間一般では通用しませんよね。実際に薬物の被害に苦しんでいる人はたくさんいます。
カルロス 親方からは「どっちみち、そんなシャバにいることないんだから。少なくとも20年は入るんだから、そこまで考えたらダメだ。それで帳消しだ。罰はもう受けてるんだから」と言われたね。「グズグズ言っても、答えようがない」と。まあ、そんな親方もブラジルで撃たれて死んじゃいましたけど。
――カルロスさんも、畳の上では死ねないだろうって思って生きてきたんですか?
カルロス 今でもそう思ってますよ。
……でも、やっぱり本当は嫌だねえ。正直なところ、そんな死に方はしたくない。当たり前でしょうけど。