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リーダーWに「お前、エスなんじゃないか」と疑われ…

 そして3回目となる4月17日午後10時ごろ。カルロスはWらと、ミナミにあるビジネスホテルのロビーで待ち合わせた。合流後、カルロスが偽名で予約していた部屋に入室した。このとき、X取締官は付近で張り込んでいた。

 Wは「新しく作ったものが届いた」と言って覚醒剤を渡してきた。今回も無事に取引が進むかと思われたが、Wは突然、こう言い放った。

「お前と関わった奴らはみんな逮捕されているらしいな。お前、エスなんじゃないか」

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 Wの配下の男が、ナイフを所持しているのが見えた。カルロスは命の危険を感じ、とっさにこう答えた。

「俺はロス・セタス(メキシコの麻薬組織)の人間だ。文句があるなら、このスマホで電話して自分で確認してみろ」

 この一言でその場は収まり、取引は終わった。しかしエスと疑われたこともあり、逮捕に及ぶことはなかったという。

右脚には銃で撃たれた痕が残っている(写真=筆者撮影)

覚醒剤やコカインが発見され、現行犯逮捕

 ピンチを切り抜けたカルロスだったが、このときすでに、大阪府警の内偵捜査を受けていた。府警は別の薬物事件の容疑者らを通じ、カルロスの密売網や薬物の保管場所などを特定。2015年1月ごろから捜査を始めていたのだ。

「どんな薬物でも扱っていた」「注文すれば1キロでも持ってこられると言っていた」「大阪で一番の大物密売人」「大阪の密売人は皆、カルロスから薬物を引いている」――容疑者らは府警に対し、口々にそう供述した。

 府警はカルロスの行動確認を実施し、自宅、当時の妻などの周辺人物、立ち回り先を調べ上げ、カルロスがWとビジネスホテルで接触した際も近くで張り込んでいた。

 そしてホテルでの取引から4日後の、4月21日深夜。薬物の保管場所だったトランクルーム前でカルロスは突如、「警察や」と声をかけられた。すぐに10人以上の屈強な捜査員が現れ、捜索令状を示した。刑事は単刀直入に聞いた。「持ってるんか?」

「あるよ、カバンに入ってるよ」

「トランクルームはどうや?」

「そこにもあるよ」

「どんぐらいあるの?」

「シャブ500とコカイン200ぐらいかな」

 その言葉どおり、覚醒剤やコカインが発見され、現行犯逮捕された。さらに、尿検査でも覚醒剤の陽性反応が出て、使用罪にも問われることになった。イラン人グループとの取引で、サンプルを炙って試した際のものだとみられる。「俺ももう終わりだな。キンマ(近畿厚生局麻薬取締部)に挙げさせたかったな」。カルロスは茫然自失のまま、そう呟いたという。