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報道機関は再検証すべきではないか?

 親子の人となりが伝わるようなやり取りだ。その後、配給会社からは、公開は中止しない、映像の一部を加工して上映する、誹謗中傷には法的措置を含め厳正に対処するという方針が発表された。公開直前にこんな事態が起きること自体、上映することの価値を物語る。この国には表現の自由があり、意見が違うとしても誹謗中傷は許されない。

 この映画は、今まで思ってもみなかった和歌山毒物カレー事件の別の姿を伝えてくれる。もしも林眞須美が無実だとするなら、誰がカレーにヒ素を入れたのか? 真犯人が気になる。そこに迫るのはこの映画の役目ではない。当時事件を報じた報道機関こそ真実を解明しなければならないのではないか? 遺族がえん罪だと訴える「飯塚事件」を描いた映画『正義の行方』で、福岡の西日本新聞が検証報道を行ったように。

 最後に、私はこの映画で見せる二村監督の“しつこい”取材ぶりが好きだ。地域住民に嫌がられても何軒も聞いて回る。事件の担当検事に、捜査員に、裁判長に、食い下がっていく。その熱意のあまり、ちょっと踏み込み過ぎてしまったようだが、そのことまでしっかり作品中でネタにしている。記者もこうじゃなくっちゃね、と再認識した。

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『マミー』ポスター ©2024digTV

『マミー』
 1998年7月、夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入。67人がヒ素中毒を発症し、小学生を含む4人が死亡した。犯人と目されたのは近くに住む林眞須美。凄惨な事件にメディア・スクラムは過熱を極めた。自宅に押し寄せるマスコミに眞須美がホースで水を撒く映像はあまりにも鮮烈だった。彼女は容疑を否認したが、2009年に最高裁で死刑が確定。今も獄中から無実を訴え続けている。

 本作は「目撃証言」「科学鑑定」の反証を試み、「保険金詐欺事件との関係」を読み解く。「まぁ、ちょっと、どんな味すんのかなと思って舐めてみたわけ」とヒ素を使った保険金詐欺の実態を眞須美の夫・林健治があけすけに語り、確定死刑囚の息子として生きてきた林浩次(仮名)が、なぜ母の無実を信じるようになったのか、その胸のうちを明かす。

監督:二村真弘/2024年/日本/119分/配給:東風/8月3日(土)より[東京]シアター・イメージフォーラム、[大阪]第七藝術劇場ほか全国順次公開