小林製薬は7月23日、臨時取締役会を開き、小林一雅会長(84)と小林章浩社長(53)が辞任し、山根聡専務(64)が社長に昇格する人事を発表した。創業家以外の人物が社長に就任するのは初となる。
今年3月に発覚した“紅麹問題”だが、6月には当初公表していた5件の死亡事例に加え、「紅麹」サプリの摂取と因果関係が疑われる死亡事例が、新たに76件あったことを厚労省が発表した。
厚労省は3月下旬以降、小林製薬に対して毎日、健康被害の件数の報告を求めていたが、6月まで報告はなく、武見敬三厚労相が「報告がなかったことは極めて遺憾。もう小林製薬だけに任せておけない」と怒りをあらわにしていた。
こうした小林製薬の“後手後手の対応”を生み出した原因はなんだったのか。同社の企業風土、内情と創業家一族の“正体”を報じた「週刊文春」の記事を全文公開する(初出:週刊文春 2024年4月11日号 年齢・肩書は掲載当時のまま)。
◆◆◆
5人の死者を出し、150人以上の入院患者を出している小林製薬の“猛毒”紅麹。「ブルーレット」「ナイシトール」「熱さまシート」などCMで見ない日はない有名企業の失敗。その陰には、創業家一族のドンの存在があった。
古くから「薬の街」として知られる大阪市中央区の道修町。田辺製薬や武田薬品工業をはじめ、大小様々な製薬会社がオフィスを構えるこの街の一角に、小林製薬も本社を構えている。
76年から04年まで社長を務め、現在も代表取締役会長を務める小林一雅氏(84)は、今から25年程前のとある日、旧社屋のエレベーターの中で、1人の社員をジロッと見つめていた。一雅氏は社員が降車後、秘書に対してこんな指示を出したという。
「今の奴は、どこのどいつだ。社員は階段使えって言っておけ」
当時を知る元社員が振り返る。
「会長に好かれればトントン拍子で出世できるが、嫌われたら一生出世はできません。だから会長と接触するのは社員にとってギャンブルみたいなものだったんです」
元幹部社員が告白「あの会社には昔から“隠蔽体質”がある」
一方、元幹部社員はこう声を潜める。
「あの会社には昔から“隠蔽体質”があるんです。一雅さんは恐ろしく、些細なミスでも怒られる。『一雅さんにバレたらどうしよう』とみんなビクビクしています。今回の問題も会長にバレずに何とかごまかせないかと悩んでいる内に公表が遅くなってしまったのではないか」
傘寿を過ぎて今なお絶対権力を有する一雅氏とは何者なのか。そして、なぜ小林製薬は、この会長のもとで“猛毒”を撒き散らすに至ったのか。
問題公表は発覚から2カ月後
死者5名、入院者延べ157名(4月1日現在)。小林製薬の「紅麹」サプリメントによって健康被害を訴える人の数は、日に日に増え続けている。
「1月15日以降、『紅麹サプリを使用した人に腎疾患が出ている。腎臓の病気を引き起こすカビ毒の“シトリニン”が含まれているのではないか』。そんな照会が医師から相次いだのです」(社会部記者)
小林製薬は2月5日に社内協議を開始したが、原料からシトリニンは検出されなかった。同社が問題を公表したのは事例発覚から2カ月以上も過ぎた3月22日だった。企業法務・コンプライアンスに詳しい山室裕幸弁護士が、“空白の2カ月”をこう断罪する。