今年に入り、未成年者を狙った「連れ去り」が急増している。警察庁によると、2024年1~3月の連れ去り事件の発生は昨年の同時期に比べ3割増加したという。子どもはどのようにして犯罪に巻き込まれてしまうのか。外出が増える夏休み、防犯のためにすべきこととは? 犯罪学を専門とする小宮信夫教授へのインタビューを、再編成して公開する。(全2回の前編/つづきを読む)
初出:文春オンライン2023年8月24日配信
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誘拐事件の約8割は子どもが“だまされた”ケース
――子どもが犯罪に巻き込まれないようにする対策というと、「怪しい人についていっちゃいけません」という声かけを思い浮かべる方が多いと思います。
小宮信夫教授(以下、小宮) その考え方で被害に遭うことを防ぐというのは、非常に難しいことなんです。子どもを誘拐する人は必ずしも外から見て明らかに様子がおかしいというわけではありません。大半は、普通の恰好で、普通の顔をした人です。「この人は犯罪をしそうだな」という判断をするのは、大人でも難しいと思いませんか?
――明確な判断基準がない、ということでしょうか。
小宮 そうです。見た目で判断してしまうことはむしろ、子どもに人間不信や差別意識をもたせてしまうかもしれません。警察庁の調査によると、小学生以下の子どもの誘拐事件の約8割はだまされて、自分から犯人についていってしまったというケースだといいます。
昭和の終わりから平成の初めにかけて、4人の少女が誘拐されて殺害されてしまった「宮﨑勤事件」がありました。犯人は「涼しいところに行かない?」「向こうで写真を撮ろうよ」などと子どもをだまして人気のない場所に連れ出し、犯行に及んだ。誘拐事件というと、子どもを力ずくで連れ去る……というイメージが先行しているかもしれませんが、ほとんどはそうではないのです。
こうした事件が起こると、日本ではまず「この人はどういう理由で犯罪をしたのか」という動機を追及します。それを取り除くことで犯罪の数を減らそうとする。こうした考え方を、「犯罪原因論」と呼びます。しかし、海外の多くの国では、「犯罪原因論」よりも効果的な「犯罪機会論」をもって犯罪防止をしようという考えが根づいています。
「人」ではなく「場所」に注目する
――「犯罪機会論」は、あまり耳馴染みがない言葉ですが、どういうものでしょうか。
小宮 「危ない人」ではなく「危ない場所」に注目するという考え方です。防犯にとって重要なのは「人」ではなく「場所の景色」なのです。
――犯罪が起こりやすい、「危ない場所」や「危ない景色」があるのですか?