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「いやだ、人殺しの訓練してた人なの」54歳で陸上自衛隊を退職した元自衛官が、転職後に突きつけられた“悲しい現実”

「いやだ、人殺しの訓練してた人なの」54歳で陸上自衛隊を退職した元自衛官が、転職後に突きつけられた“悲しい現実”

『定年自衛官再就職物語 - セカンドキャリアの生きがいと憂うつ -』より #2

5時間前
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自衛官だった数田氏ならではの不安

 主な業務内容は利用者の顔と名前、自宅を覚え、利用者を安全に送迎すること。加えて送迎は朝・夕のみなので、空いた時間は館内の清掃や雑務、簡単な介護・介助にも携わる。

 手取り額は20万円を切るが、「送迎ドライバーとしてだけであれば、時給1000円ちょっとのアルバイトとして雇われていることも多いようです。そんな中、正社員として雇用してくれていることはありがたいと思っています」と話す。

 この「送迎」には、当然ながら乗車・降車の移動介助も含まれる。最初こそ、介護職員が同乗していたものの、介護職員初任者研修の資格を取得してからは、移動介助も数田氏の仕事だ。これまで頑強な自衛官ばかりと接してきた数田氏にとって、高齢者に触れることには不安もあった。

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「もし誤って転倒でもさせてしまえば、簡単に骨が折れてしまうかもしれない。骨が折れてしまえば、寝たきりになる可能性もある。そんな事態だけは絶対に避けなければいけない」。そんな不安も抱えていた。

写真はイメージです ©mapo/イメージマート

 昨今、高齢者を乗せた送迎車の事故が増加しているとも言われている。数田氏自身、「常に気を張り詰めていますが、走行中に話しかけてくる方もおられます。その対応もしなければなりませんので、運転は結構疲れます」と話す。

 当初は、利用者から「顔や雰囲気が怖い」「目線が怖い」と言われることもあったという。「自衛官としての態度が、逆にマイナスになったかもしれない。でも自分ではどうすればいいかわからない」と、同僚に相談。その結果、「なるべく笑顔を心がけること」「相手の目を見つめすぎないこと」「利用者のことを考えて対話すること」が重要だと教わった。

 自衛隊では「相手の目を見て話せ」と教わってきただけに、「相手の目を見てはいけない」というアドバイスには驚きもした。だが、実践すると確かに「雰囲気が柔らかくなったね」と声をかけられた。