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利用者から「いやだ、人殺しの訓練してた人なの」と…

 これまで数田氏が最もつらかったのは、「自衛官である過去を否定されたこと」だ。利用者の女性と雑談していたとき、話の流れで「自分は自衛隊にいました」と告げたところ、それまで楽しく談笑していた女性の顔色が変わった。「いやだ、人殺しの訓練してた人なの。そんな人だと思わなかった」。それまでの和やかなムードは一転、冷ややかな空気に包まれた。その後、女性は数田氏を露骨に避けるようになったという。

「確かに私が入隊したころは、まだ『自衛隊なんて……』という空気が世間にありました。けれど時代は移り変わり、多くの国民に受け入れられるようになったと感じていました。しかし、やはりまだ自衛隊に対してアレルギーを持つ人はいるんですよね。こうもあからさまに思いをぶつけられたこと、それがその後の仕事に影響したことは、正直言ってしんどかったです。自分が自衛官であったことには誇りを持っていますが、誰かに『前職は自衛隊です』と言うときにはいまも少し緊張します」

 そんな中でも、やりがいは何といっても利用者からの感謝の言葉だ。

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「ありがとう」と言ってもらえるのがモチベーション

「自衛官時代には、直接国民から感謝の言葉を述べられる機会というのはほとんどありませんでした。それがここでは、利用者さんから直接『ありがとう』と言ってもらえます。その感謝は大きなモチベーションになります」

 施設内の清掃も数田氏の業務だが、自衛隊で培った清掃やベッドメイキングのスキルは、期せずしてここで生きた。「数田さんの清掃した部屋は綺麗だ」と言われることは、ささやかな自信になっている。

 今後については、介護ドライバーの仕事を続けていくつもりだ。ただし、介護業界全体には、疑問もある。

「『介護』と言うと『キツイ』というイメージが浮かび上がるかと思います。確かに自衛隊のころのほうが断然、楽でしたし、介護職は給与が低い。20代の若者が夢を持てる業界ではありません。24時間対応の施設もあります。『自衛隊が紹介してくれたから行ってみる』という気持ちでは、続けることが難しいかもしれません。ただ腹さえくくれば、介護は未経験でも多くの事業所でOJT(職場での実務訓練)の制度があるので、体力と責任感のある自衛官は非常に重宝されるはずです。『人』が好きな方は、『この世界で生きていく』という覚悟さえ持てばきっとやりがいを見出すことができると思います」