自衛官の定年は一般企業、他の公務員よりも早く、年間6000人の退職者の大部分が55歳前後だという。定年後も大企業顧問、研究機関の長、大学、メディアなどで活躍できるのは、一握りの超エリート自衛官だけ。そのほかの自衛官はどんなセカンドキャリアを歩み、どのような現実と向き合っているのだろうか?

 ここでは、防衛大出身の作家・松田小牧氏が、自衛官のセカンドキャリアを追った著著『定年自衛官再就職物語 - セカンドキャリアの生きがいと憂うつ -』(ワニ・プラス)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

写真はイメージです ©YANCHINGNOW/イメージマート

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陸上自衛隊を54歳・3尉で退職し、介護職へ転職

「人材不足」が喧伝されている、介護職や輸送職に就いた自衛官の姿も見ていきたい。社会の高齢化にともない、少しずつ介護職に就く元自衛官も増えているようだ。

 介護事業所が提供するサービスは、大きくわけて「居宅型」「通所型」「施設型」にわかれる。居宅型は、利用者が自宅でサービスを受けるもの、通所型は利用者がサービスを提供する施設に赴くもの、施設型は特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで介護サービスを受けながら生活をするものとなる。

 2010年代に陸上自衛隊を54歳・3尉で退職した数田政義氏(仮名)は、介護職への転職を考えていると妻に打ち明けた際、当初は猛反対を受けた。

「介護は『低賃金でつらい仕事』とのイメージを持っていたようです。私が自衛官の仕事はできても、介護の仕事は耐えられないんじゃないのかと心配していました」

 それでも、自衛隊で「人の大切さ」を強く感じていた数田氏は、「心を込めて人に接したい。いまの自分のスキルでそれが叶うのは介護職だ」と譲らなかった。

「元自衛官であれば安心できるね。期待しています」

 ただ当初は介護ヘルパーの道を歩むつもりだったが、妻との話し合いの結果、自己開拓で通所型の施設の送迎を中心とした業務に就くことが決まった。介護ドライバーになるには、普通自動車一種免許さえあればいい。介護タクシーなどと違って利用者からお金を取らないため、二種免許は必要ないのだ。

 施設としても、元自衛官の採用は初めてとのことだったが、面接時に所長から言われた「元自衛官であれば安心できるね。期待しています」との一言に、嬉しさを覚えた。