パリオリンピックで女子100メートルバタフライに出場した池江璃花子さんは、2019年に白血病を公表し、療養生活に専念した後、復活を果たした。池江さんの成長を中学2年から見守ってきた“育ての親”、ルネサンス元社長の吉田正昭氏が、当時の様子を語った「文藝春秋」のインタビューを紹介する。
「“真ん中”って緊張する」
実戦復帰は2020年8月。東京辰巳国際水泳場で行われた東京都特別水泳大会です。最寄りの新木場駅から汗だくになって、私が到着すると、会場の外にうちのスタッフ、マネジャーと璃花子が所在なさげに立っていました。
「おう、なにしてんの」と聞くと、「いや、もう中が寒くて」って言う。
普段は、レース前に外に出るような子じゃない。会場の控室にいることが落ち着かなかったのでしょう。珍しく緊張しているように見えました。
いざレースが始まればもういつも通りの璃花子で、自分のペースで泳いでいるように見えました。
50メートル自由形に出場し、5位とはいえ、26秒32と目標のタイムを大幅に上回る結果に。レース後、彼女は「第2の水泳人生の始まり」と話していましたが、幸先のいいスタートとなりました。
調子を取り戻してきたのが、2021年2月のジャパンオープン。予選を1位通過した璃花子は、決勝で第4レーン、つまり中央のコースを泳ぐことになりました。
「定位置に戻ってこれたな」
「真ん中って、やっぱり緊張します」
「いつも泳いでいた自分のコース。緊張しないやろ」
控え室でそんなやりとりをしましたが、ようやく自分のホームグラウンド、ホームコースに帰ってきたという思いが強かったのかもしれません。緊張とわくわく感が入り混じっていたんでしょうね。
約2週間後の東京都オープンでは、50メートルバタフライで優勝。五輪種目ではありませんが、目標を大きく上回るタイムで日本学生新記録を樹立しました。バタフライの練習を本格的に再開してから1週間ほどの時期でしたから、本人も手ごたえを感じていたようです。