「教育委員会も学校も、会見で本当のことなんて言ってないですよ」「『上級生に謝らせたから解決していたと思っていた』と説明していましたけど、あれも嘘です」。2018年に愛娘を自殺で失った、永石洋さん。娘の事件を「有耶無耶にしたくはないん」と憤る彼が語った、学校側の怠慢、そしていじめの中身とは? 高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「日影のこえ」による新刊『事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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死後2ヶ月後してようやく事件が表沙汰に
私はいじめ事件の取材経験が多くはない。自殺報道は、多くのメディアがWHO(世界保健機関)が策定した『自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識』というガイドラインを準拠しているからだ。ガイドラインには、後追い自殺を誘発させないため「報道と同時に相談機関を明記すること」「遺書を必要以上に公開しないこと」などが推奨されている。噛み砕けば「自殺した人をヒロインに仕立て上げるな」と言わんばかりの内容だ。ともかく、このWHOの取り決めにより、メディアは自殺問題に及び腰になる。
ために、当初は陽菜の事件をメディアが報じることはなかった。すでにネタを掴んでいた記者もいたが、ガイドラインがネックになっているからなのか、そっと矛を収めていた。
事実、事件は学校の不祥事を信じて疑わなかった洋が行政に調査を求め続けたことに対して、八王子市教育委員会が重い腰を上げて会見を開き、陽菜の死から2ヶ月以上が経過した2018年11月に入りようやく表沙汰になる。以下は、その新聞報道である。
○中2自殺「いじめあった」八王子 市教委指摘、関連を調査
東京都八王子市の教育委員会は6日、記者会見を開き、市立中学2年の永石陽菜さん(13)が8月に自殺を図り、その後死亡したと発表した。3月まで在籍していた中学での部活動でトラブルがあったとする遺書を書いており、市教委は中学の内部調査を受け「いじめがあった」と認定した。今月中に有識者による第三者委員会を設置し、自殺との因果関係を調べる。市教委によると、陽菜さんは2017年8月、家族旅行で部活動を休んだことから、上級生から交流サイト(SNS)で「どうして休んだ」と批判され、不登校となった。(2018年11月7日 日本経済新聞)
事件はマスコミ各社により流布された。とはいえ会見の内容を報じるに留まり、詳細や続報が流されることはほとんどなかった。
教育委員会の見解をそのままタレ流しているとしか思えない記事群を読み、私はどうにも腑に落ちなかった。「どうして休んだ」とSNSで批判されただけで自殺に至るとは、到底思えない。そもそも、それは批判にすら当たらないのではないか。そして、この事件を取材しようと思ったのは、行政が、都合が悪いことが起きると問題をすり替えることをよく知っていたからだ。
スマホに届く罵詈雑言のメッセージ
それからしばらくして、私は陽菜の自宅を訪ねた。両親は「本日は遠くからありがとうございます」と深々と頭を下げて礼を述べ、洋が私の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「第二の陽菜を出したくない。有耶無耶にしたくはないんです」
前述のように、教育委員会はいじめの引き金を「部活をさぼったから上級生が注意したこと」だとしていた。だが、洋は次のように話す。