決定的な点差をつけられたかに思えた中で、劇的な逆転で2大会ぶりの金メダルを獲得した体操の男子団体総合。

  試合の流れと結果もさることながら、注目を集めたのは日本のエース、橋本大輝(22)の“あるふるまい”だった。

金メダルを獲得した体操男子団体のエース・橋本大輝 ©JMPA

ややもすれば相手の失敗を願ってしまいそうになる場面でも…

  それは逆転劇が起きた最終種目の鉄棒でのこと。

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 日本は中国と同組となり、ともに鉄棒に臨んでいた。日本の3人目は橋本。予選では鉄棒で苦しんだが、この日は会心の演技を披露。着地でも乱れることなく14.566点の高得点をたたき出した。

  場内は拍手と歓声に包まれた。橋本自身もまた、自身の演技に手ごたえがあっただろう、高揚した雰囲気を漂わせていた。

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 だが橋本はすぐさま人差し指を口に当て、場内に静まるように求めた。さらに両手を使って、歓声をおさめるように観客に働きかけた。それは、中国の3人目の選手の演技の邪魔をしないためだった。

 そして登場した中国の3人目は、エースの張博恒。張が演技を終えると、橋本をはじめ日本の選手たちと互いに称え合った。

 日本にとって中国は、団体での金メダルを目指すにあたって最大のライバルだ。中国から見ても、日本を倒すことが金メダルへの最大の障害になる。ややもすれば相手の失敗を願ってしまいそうになる場面でも、互いをリスペクトし相手の演技を称賛した彼らの姿は、観る人に大きなインパクトを与えた。

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  ここには、橋本と張の長年の関係性も隠れている。パリ五輪の前から、橋本と張はライバルとして互いの存在を意識してきた。昨年の世界ユニーバシティゲームズ個人総合で橋本が負傷で棄権を余儀なくされた時には、張は中国メディアにこう語っている。

「彼はずっと、尊敬すべき選手であり続けています。私たち2人にはたくさんの類似点があります。ともにオールラウンダーですし、互いに励まし合う関係にあると思います。一緒に出場できれば、私たちが引き続き努力して進歩する励みになります」

「橋本の怪我が深刻でなく、早く回復してくれることを願っています」