エースの橋本大輝、2大会連続出場の萱和磨と谷川航、初出場となる岡慎之助と杉野正尭という5人の代表メンバーで挑んだ男子団体総合の決勝。最終種目の鉄棒で中国を追い抜く“逆転劇”をみせ、2大会ぶりとなる悲願の金メダルを手にした。

 五輪ではアテネ大会と北京大会でメダルを獲得し、現在は指導者として後進の育成に携わる冨田洋之さん(43)。7月初め、日本代表選手たちの“強さ”や見どころについて伺ったインタビューを公開する。(全2回の後編/はじめから読む

団体総合でリオ五輪以来2大会ぶりの金メダルを決め、喜び合う選手ら ©時事通信社

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それぞれに得意種目があり、バランスが取れたチーム

――代表選手5人は、「団体で金メダル」と口を揃えています。個人総合や種目別の個人で活躍するのではなく、団体を重視していたのはなぜですか。

現在は順天堂大学体操競技部の監督を務め、橋本、萱、谷川らを指導してきた冨田洋之さん ©深野未季/文藝春秋

冨田洋之さん(以下、冨田) 東京五輪の悔しさがあるからだと思います。橋本が個人総合と鉄棒で金、萱があん馬で銅メダルを獲りましたけど、団体は僅か0.103の差で銀メダルでした。

 団体は日の丸を背負うという意識が強くなる。他の競技では団体戦より個々の試合が注目されますが、体操は団体戦への注目度が高い。種目別にはない緊張感があるように思います。

 今回のチームはバランスがいいと思います。東京五輪の悔しさを知っている橋本、萱、谷川がいて、新たなエッセンスとして岡と杉野が加わった。エース1人に頼るチームというより、それぞれに得意種目があり、全体にバランスが取れている。団体として進化したチームです。

橋本選手は「一気に化けそうだな」という予感はあった

――東京五輪での橋本選手の活躍にびっくりしました。19歳での個人総合金メダルは歴代最年少です。

冨田 彼のことは中学・高校時代から知っていますけど、当時から空中感覚に優れた選手でしたが、演技としてはまだ粗削りな状況でした。ただ大学に入る頃には成熟しており、練習で何度も大技に挑む姿勢などから、「一気に化けそうだな」という予感はありました。

団体総合、床の演技ではG難度の大技「リ・ジョンソン」を決めて14点台後半をマークした橋本大輝 ©時事通信社

 その一方で、入学したばかりの頃は感情の波があったように思います。調子が上がらないときは、あらゆることをネガティブに捉えてしまい、試合でも消極的になる傾向にありました。どの競技も同じだとは思いますが、メンタルの状態はパフォーマンスを大きく左右します。