1ページ目から読む
2/3ページ目

橋本選手の最も優れているところ

冨田 そんな時は「今できることのベストは何か」を考えるようアドバイスをしていました。プレッシャーのかかる国際大会で常に調子がすごくいい、なんてことはまずないですし、その中でいかに最高のパフォーマンスを出せるかが勝負の分水嶺になります。ただ彼は、1言えば10、20と理解して自分のものにできる選手。試合や練習での短いやり取りの中ですぐ修正していました。

©深野未季/文藝春秋

 東京五輪直前には、金メダルを狙えるかなというレベルまでは行っていたと思います。1年の延期、無観客開催とイレギュラーな状況がどうかな、と思ったけど取り越し苦労だった。

 ただ、東京大会以降は五輪チャンピオンとして、あるいは日本のエースとしての心の持ち方に悩んでいたのではないでしょうか。それでも、その都度その都度乗り越えてきた。全ての経験を成長へと繋げてくれています。

ADVERTISEMENT

団体最終種目・鉄棒で最終演技者を務めた橋本。ぴたりと着地し、中国を抜いて優勝を決めた ©時事通信社

――橋本選手が、最も優れているところはどこですか。

冨田 体操が好きなところですね。それは、彼が歴代でも一番かもしれません。体操を熱心に研究しますし、理解も早い。たとえば、練習中も「あの時失敗した原因はこうです」と、言葉で説明してくるんですね。自分の動きを言語化できる体操選手はなかなか珍しいと思います。だから教えていても面白いし、私も新たな気づきを貰うこともあります。

 新たな技の習得にも熱心で、一緒に練習している学生たちのこともよく見ている。たとえば相手がどんなに後輩であっても、その人しかない強みを探して自分に取り入れようとする姿勢がある。彼の強さの理由だなと日々思っています。

「とにかくメンタルが強い」キャプテンの萱選手は…

――安定感に定評がある萱選手はどうですか。彼は博士号も取得したんですよね。

キャプテンの萱和磨。床やあん馬など4種目で日本のトップバッターを務め、安定感抜群の演技でチームを勢いづけた ©JMPA

冨田 スポーツ健康科学の博士号ですね。萱はとにかくメンタルが強い(笑)。ストイックですね。本番が一番いい演技をするんだろうな、と思える稀有な選手です。筋力とか体の柔軟性、動きなどアスリートとしての素質が特別に高いわけではありません。

 でも、失敗しない裏付けを自分の中にロジカルに落とし込んで、自分の能力を引き上げているのだと思います。だから五輪のようなプレッシャーのかかる舞台でも、萱だけは安心してみていられますね。