文春オンライン
マラソンは芸術だ…箱根駅伝に挑み続ける早稲田大学競走部に継承される教え

マラソンは芸術だ…箱根駅伝に挑み続ける早稲田大学競走部に継承される教え

『俺たちの箱根駅伝』(池井戸潤)を読む #1

6時間前

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 読書, 社会, 企業

note

10区では「ショパンのリズムで行こうよ」と

 だから私の声掛けでは、もし本人が緊張していたらそれを少し落ち着かせるくらいを目指しています。小説の中でも、監督が「空を見てみろ」と声掛けするじゃないですか。あれは上がりきっている選手に対して、いい声掛けだなって思いました。今度、実際のレースで自分も使っちゃおうかな、なんて思ったくらいです(笑)。あとは6区の山下りでアナウンサーが彼の生い立ちに重ねあわせて、頑張れとエールを送る場面にも、うるっときてしまいました。

 早稲田の駅伝監督就任1年目、10区を走った菅野(雄太)はピアノが上手で、最初に話したときにショパンを弾くと聞いていたので、「ショパンのリズムで行こうよ」と声をかけたら、本人がちょっと笑ってくれました。一般受験で早稲田に入って初めての箱根駅伝でしたが、後から「あの声掛けで少しほぐれました」と言ってくれて。そうした、本人が自分自身で流れを変えられるきっかけになるような声掛けをしたいと思っています。

 

 上武時代も4年生で初めての箱根駅伝をアンカーで走った地下(翔太)という選手がいて、彼は本当にコツコツ4年間やってきたんですけど、なかなかメンバーに入れなくて、夏前に正直に「すごく頑張っているから使いたいけれど、最後は実力だ。このままでは使えない」と言ったら、そこから半年すごく頑張って、実力で最後にメンバーに入ったんですね。

ADVERTISEMENT

 その頑張りを皆さんに知ってほしくて、「熊本県、多良木高校出身、地下(じげ)翔太! よく頑張った! 上武大学に来てくれてありがとう!」と声掛けしました。本来そういうことを言うべきだったかは分かりませんが、それを日本テレビの蛯原(哲)アナウンサーが取り上げてくれて、ちょっとした話題になったこともありましたね。