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「早田ひな選手のオーラはすごい。僕も怖くて話しかけられない」卓球金メダリスト・水谷隼が語った後輩たちの“実力”

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“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、元プロ卓球選手の水谷隼さんです。女子シングルスで銅メダルを獲得した早田選手をはじめ、パリオリンピックで活躍する後輩たちへの評価は?

 有働 水谷さんが現役を引退されてから、もう3年になりますね。

 水谷 東京五輪から、そんなに時間が経ったんですね。

 有働 実は、実家に卓球台があったくらい卓球好きでして、対戦相手の嫌がるところを的確に突いていく水谷さんのプレースタイルが大好きだったんです。私、すっごく性格が悪いので試合を見ていて「気持ちいい!」って(笑)。

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早田選手(右)ら後輩たちについて語った水谷氏 ©文藝春秋/時事通信社

 水谷 さすが卓球の本質を分かっていますね。卓球は良いショットを打つことが、勝ちに近づくわけではないんです。相手をイライラさせてメンタルを崩壊させ、ミスを誘うのが一番大事なんですよ。

 有働 でも、いまは『ズームイン!!サタデー』(日テレ系)のスポーツキャスター、『ひるおび』(TBS系)のコメンテーターとして、爽やかなイメージでテレビに出ていますよね。コメントを聞いていても、「めっちゃいい人やん」と思うのですが、実際のところ、本当の性格ってどうなんでしょうか?

 水谷 それ、僕に言わせるんですか(笑)。確かに選手時代は二重人格みたいな感じでした。普段は温厚な性格なんですが、アスリートという仕事は、相手を倒さなければいけない。チャンピオンは世界で1人ですから。そのためには心を鬼にするしかないんです。

 有働 自分の勝利が相手の夢を打ち砕くということまで理解した上で、戦いに臨んでいたんですね。

親しい卓球選手はいません

 水谷 逆に相手は僕の夢を潰しに来るわけですから。卓球の難しいところは、シングルス、ダブルス、団体戦と複数の種目があること。シングルスで敵だった日本人選手が、ダブルスでは味方にもなる。複雑な心境ですよ。

 有働 まさに「昨日の敵は今日の友」になり得ると。

 水谷 だから僕はプライベートで親しい卓球選手はいないんです。仲良くなると「こいつになら負けてもいい」と思ってしまいそうで。選手として、そういう考えが少しでも浮かんだら終わりですから。

 有働 そこまで徹底していたからリオ五輪で、シングルスとしては日本人初となる銅メダルと団体の銀メダルを獲得。東京五輪では混合ダブルスで、伊藤美誠選手と組んで金メダルを掴み取れたわけですね。

 水谷 僕は基本的に海外でプレーしていたから、日本人特有の「みんなで力を合わせて頑張ろう」という感覚はないんです。卓球のような個人スポーツでは、その精神で世界で勝つのは難しいと思っています。

 有働 厳しい勝負の世界から、いまテレビという、それはそれで複雑怪奇な世界のお仕事を3年間してみて、いかがですか?

 水谷 僕は中学2年でドイツ留学していて、以来、学校でまともに勉強をしていないんです。コメンテーターをしていると、政治や社会情勢など知らない事ばかりで、自分の知識の無さを日々実感しています。

卓球をやめようかと思った

 有働 そもそも水谷さんは、選手時代から自分の意見をはっきり口にしていましたよね。2012年のロンドン五輪の後には、ラケットのラバーの補助剤問題を告発した。

 水谷 しましたね。「用具ドーピング」と言うのですが、ラケットに補助剤を塗って乾燥させるんです。するとラバーに反発力や摩擦力が出て、通常では考えられない威力や回転力のあるボールが打てる。

 有働 日本では禁止されているのに、中国など他国では補助剤が使われていた。国際卓球連盟が禁止を命じても、実質的に野放しだった。その現状を雑誌のインタビューで問題提起した。勇気のある告発ですよ。

 水谷 若かったこともあって、このドーピングさえなければ「自分が世界一になれる」という自信があったんです。だから、とにかくこの問題を解決しないといけないという気持ちで一杯でした。スポーツがフェアであるべきだという思いもありましたが、それより自分が世界一になることが意識の中では優先でした。

 有働 国際大会を一時期ボイコットまでしましたが、不正の明確な証拠をつかむことは出来ず、残念ながら用具ドーピングが横行する状況は変わらなかった。

 水谷 なかなか個人の力では難しかったですね。辛かったのは、周りの選手や日本卓球協会があまり関心を持ってくれなかったことです。

 有働 なぜでしょう? 他の選手にも関わる問題ですよね。