ですが、やはり体力的にしんどくなってしまって退職を伝えたところ、『もうちょっといてほしい』とずっと引き留められたそうなんですね」と谷本さん。会社に恩がある依頼者は、きちんとした退職のプロセスを踏みたいために、退職代行サービスを利用したそうです。
何らかの理由で自らの意思を伝えることが難しい人にとって、代行業は重要なサービスと言えます。何も手続きを踏まずに会社を離れてしまうと、企業は大きな痛手を負います。退職代行モームリの場合、会社からの保険証や貸与物の返却はきちんとおこない、可能な限り業務の引継ぎをおこなうよう退職者に勧めています。
後藤記者は「先ほどの71歳の方のように、会社に恩がある状態でも『できるだけいい形で辞めたい』という考えのなかで、思いがなかなか伝えられない人の依頼もあります。ただ、こういった例は少数です」と述べます。退職代行サービス利用に至った理由の多くは、ハラスメントであったり、入社前に受けた説明とは異なる労働条件だったりと、苦しい状況に置かれた人が助けを求めるケースです。
IT、建設業界などから“転職人材”の依頼も
退職代行サービスの利用者急増に伴い、就業規則に「退職代行を使って退職することを禁止する」といった内容を採用する企業も出ています。退職代行を禁止して人材の流出を防ごうとする企業に対し、谷本さんは「職場環境を改善して労働者が働きたいと思える職場であれば、そもそも退職代行なんて使わないですし、退職もしません。力を入れる矛先が間違っていて悲しいです」と思いを語ります。
今後、退職代行をおこなう企業がさらに増えるのではないか、と予測する谷本さん。
「このまま退職代行が増えていくのは、社会のあるべき姿ではないと私たちは思っております。退職代行を使った退職者が増えることによって、企業側は自社の労務関係や職場環境を改善しなければならないことに気づく、そして労働者が退職しないような職場を作っていく。そうすれば自ずと退職代行はなくなるのかなと思います」と呼びかけます。
谷本さんの願いは、退職代行を必要としない社会の実現です。
一方、退職代行モームリには退職者が集まるとして、IT、建設業、運送業といった人手不足の企業から、人材紹介の依頼が10社以上から寄せられています。
「退職代行で社員に辞められて困らない会社はないと思いますが、退職代行から電話が来たということは、悪い職場環境になっているのではないかという“シグナル”だと気づくことが、企業にとって大切なことなのかもしれません」と後藤記者はコメントしました。