京都蓮久寺の三木大雲住職のもとには、奇妙な体験をした人、助けを求める人からの相談が、日々持ち込まれてきます。拾った白い綺麗な石を目玉だという友達、骨董市で買った不思議な絨毯、小さいおじさんを捕獲して家で飼っていると言う人――。

 新刊文庫『怪談和尚の京都怪奇譚 積徳の旅篇』にも、日常に潜む怪異現象や不気味な出来事が数多く掲載されています。その中から、第1回はある男性が旅行から帰宅してから怪奇現象に悩まされた日々を告白した「言語道断」を紹介します。(全2回の第1回/後編を読む

 

悪夢の始まり…部屋に充満するアンモニア臭

「信じてもらえないと思うのですが……」

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 そう前置きしてその男性は、とても不思議なお話をしてくださいました。

 男性は、社会人三年目の広崎さんという方です。

 この方が、ある日突然、不思議な現象に悩まされることになったと仰るのです。

 広崎さんは、とある会社にお勤めになって二年が経ったある日のこと、先輩から有給休暇を消化しているかと尋ねられたそうです。

 毎年有給休暇を取っておられたそうですが、言われてみれば今年はまだ取っていないということに気が付かれました。

 そこで、学生時代の友人らと休みを合わせて、旅行へ行かれたそうです。そしてその旅行から帰宅した日のことです。

 自宅のアパートの下に着かれたのは、もうかなり遅い時間だったそうです。凄く楽しい旅行だっただけに、明日から仕事かと楽しかった時間を名残惜しく思いながらアパートの三階の自室を見上げると、窓からは煌々(こうこう)と電気の明かりが見えたそうです。

暗闇の中で灯がともるアパート

「しまった、電気を点けっぱなしで何日も部屋を空けてしまっていた」と、電気代の心配をされたそうです。

 慌てて部屋まで行き、扉を開けると、部屋の中は真っ暗で、電気は消えていたそうです。もしかすると下からアパートを見た時に、他の部屋の窓と見間違えたのかも知れないと思われたそうです。電気を点けて靴を脱いで部屋に入った瞬間、強い刺激臭を感じたのだそうです。それは、所謂アンモニアの臭いだったそうですが、数秒後には消えたと仰います。