京都蓮久寺の三木大雲住職のもとには、奇妙な体験をした人、助けを求める人からの相談が、日々持ち込まれてきます。拾った白い綺麗な石を目玉だという友達、骨董市で買った不思議な絨毯、小さいおじさんを捕獲して家で飼っていると言う人――。

 新刊文庫『怪談和尚の京都怪奇譚 積徳の旅篇』にも、日常に潜む怪異現象や不気味な出来事が数多く掲載されています。その中から、第1回はある男性が旅行から帰宅してから怪奇現象に悩まされた日々を告白した「言語道断」を紹介します。(全2回の第2回/前編を読む

部屋の床に撒かれていた白い粉

 その後、広崎さんは社員研修を終え、再びアパートに戻って来られました。アパートの下から自室の窓を見ても、外から見る限り異変はありませんでした。

ADVERTISEMENT

 そのまま、恐怖と不安を抱えながらゆっくりと部屋の扉を開けて、部屋中を見渡されました。しかしそこには誰の姿も気配も無かったそうです。

「良かった」そう思いながら靴を脱いで部屋に入ると、足の裏に何か変な感触を感じられました。

 直ぐに部屋の電気を点けて見ると、部屋の床には白い粒々の粉が撒(ま)かれていたと仰るのです。

床に散らばった白い粉

 その粉に顔を近付けてよく見ると、どうやらお塩のように見えたのだそうです。小指に少し付けて、舌先で舐めてみると、やはりそれはお塩だったそうです。

 その直後、部屋中にまた悪臭が漂ってきました。アンモニア臭です。今回は前回よりも強い臭いで、目や鼻が痛くなる程だったと仰います。

「なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。自分が何をしたというのか。今も部屋に帰るのが不安で怖いんです。こんな話、信じて貰えませんよね」

 広崎さんはお話を終えられると、凄く疲れたご様子でした。

 私はお話をお聞きしていてとても気にかかることがありました。それは、これらの現象が現れた最初のきっかけです。

 広崎さんの場合、旅行から帰られてからということでしたので、私は旅行先をお聞きしました。